2018 Fiscal Year Research-status Report
コナジラミ類の複合共生系に見られる”菌細胞内棲み分け”の多様性と形成機構の解析
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18K05673
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
土田 努 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (60513398)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共生細菌 / 複合内部共生系 / コナジラミ / 共生系の進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、タバココナジラミ体内に存在する2種類の必須共生細菌が、1) 同一の菌細胞内で小胞体膜を介して棲み分けを行なっており、2) 必須アミノ酸の中間代謝産物をお互いに授受しあいながら必須アミノ酸を合成していることを見出した。本課題では、コナジラミ類における細胞内棲み分けの一般性を検証し、棲み分けに関する分子機構を宿主側および共生細菌側から明らかにすることを目的とする。初年度にあたる平成30年度には、以下の研究成果を得た。 研究課題1:コナジラミ類における共生細菌の細胞内棲み分けの一般性の検証 これまでに細胞内棲み分けが確認されているMED Q1およびMEAM1系統に加え、タバココナジラミ複合種群に属するMED Q2系統、Asia II 6系統、China系統、およびもっとも祖先的と考えられるJpL系統を対象に解析を行なった。その結果、全ての遺伝型において、2種類の細菌が同一菌細胞内に存在し、核に隣接してArsenophonus、細胞質側にPortieraが棲み分けているのが検出された。タバココナジラミ複合種群と8,000万年以上前に分岐したとされるオンシツコナジラミでは、菌細胞の大きさがタバココナジラミとは有意に異なっていたにも関わらず、同様にArsenophonusとPortieraによる菌細胞内棲み分けが観察された。一方、イシガキコナジラミを対象として、菌細胞内の共生細菌をFISH法を用いて解析したところ、細胞質側にはPortieraが検出されたものの、核側にはいずれの共生細菌も検出されなかった。以上のことから、コナジラミが共通祖先から進化する過程で細胞内棲み分けが確立されており、初期に棲み分けを行なっていた細菌はPortieraとArsenophonusであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
タバココナジラミ複合種群の複数種、および別属のコナジラミを対象にした研究を行い、細胞内棲み分けの一般性および多様性を明らかにすることができた。一方、日本に近年侵入したMED Q2系統については、当初予想していたRickettsiaは菌細胞内からは検出されず、検証に予想外の時間を有してしまった。結果的に、原産地付近のMED Q2系統を取り寄せることで日本に分布するものが特殊な共生細菌組成をもっていることが確認された。当初、MED Q2の共生細菌のゲノム解析も予定していたが、上記理由により解析に若干の遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始直後に、フランスおよびスペインの研究グループから、解析を予定していたオンシツコナジラミのArsenophonusのゲノム配列が公表された。これを受け、本課題でのゲノム解析のreferenceとして有効活用するとともに、これらのゲノムを対象に加え、棲み分けに関わる共生細菌側の分子の特定を加速する。
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Causes of Carryover |
当初、いくつかの状況証拠からMED Q2系統の必須共生細菌としてRickettsiaを想定しており、今年度はそのゲノム解析のための予算も考慮していた。しかし、予想に反して、RickettsiaがMED Q2の必須共生細菌である証拠は得られなかった。それ故、ゲノム解析のための予算使用を一時保留することとした。新たに見つかった証拠とあわせて考慮することにより、材料として使用していた日本に新規に侵入したQ2系統は、本来の細菌組成から必須共生細菌としてArsenophonusを失ったものであることが示唆された。次年度は、MED Q2系統のArsenophonusのゲノムを解析することにより、すでに解読されているオンシツコナジラミのArsenophonusとの比較や、菌細胞内で同居するPortieraとの代謝系の相補性の検証を行っていく。
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