2020 Fiscal Year Research-status Report
広食性昆虫(ハスモンヨトウ)の味覚受容システムの解明
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18K05677
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
龍田 勝輔 佐賀大学, 総合分析実験センター, 助教 (00565690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永野 幸生 佐賀大学, 総合分析実験センター, 准教授 (00263038)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ハスモンヨトウ / 昆虫 / 味覚 / 電気生理実験 / 塩 |
Outline of Annual Research Achievements |
広食性農業害虫ハスモンヨトウの味覚受容解析のため、摂食行動実験により昆虫の基本味とされる糖、塩、苦味物質への応答を調べた。その結果、動物(昆虫)が嗜好する5から100 mMの低濃度塩(NaCl)に対してハスモンヨトウ幼虫が忌避行動を示し、その摂食行動は強く抑制され、その抑制効果はNa+イオンに起因することが明らかとなった。さらに、各幼虫齢の摂食行動実験を実施した結果、農作物への摂食被害が深刻である最終齢においても塩による塩忌避性および摂食抑制効果が確認され、NaClにおいては中齢よりも強く摂食が抑制された。よって、塩による摂食抑制効果は塩忌避感受性の高い個体群においては有効な防除手段になることが示唆された。本種幼虫の塩忌避における高感 受性が本種の普遍的な表現型であるかを検証するため、佐賀県、沖縄県、鹿児島県で採集した個体における摂食行動実験を実施し、これまで使用してきた累代飼 育系統と比較した。その結果、採集地域により塩忌避性は異なり、一部の個体群は低濃度塩に対する忌避行動を示さなかった。採集地域による塩忌避性の差異は本種幼虫の塩受容に起因すると予想し電気生理実験を行った結果、本種幼虫の塩受容は他種昆虫と同様に2種類の味覚受容細胞によって制御されているが、塩忌避感受性の高い個体群は高濃度塩受容細胞の塩感受性が高いことが明らかとなった。つまり、塩忌避感受性の高い個体群は、昆虫が嗜好する100 mM以下の塩においても摂食行動を抑制する神経シグナルが中枢神経系に伝達されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延およびその対策により、野外調査が不可能な状態となった。本研究の主要テーマである遺伝的多様性と塩受容多様性の相関の検証において大幅な遅れが生じている。 本年度は、累代飼育系統を用いて電気生理実験を中心に実施した。本種幼虫口器に存在する味受容感覚子(3種類)はそれぞれ水・糖・塩・苦味物質・イノシトールを受容する味細胞が存在し、さらに1種類の味物質に複数の味細胞が応答した。本種幼虫は非常に複雑な味受容メカニズムを持つことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
1 塩と苦味物質の相乗・相加効果の検討において3種類以上の混合餌における摂食抑制効果を検証する。新規苦味物質の探索およびアミノ酸の摂食への影響を摂食行動実験および電気生理実験にて検証することを計画している。 2 コロナ禍の状況を鑑みつつ、九州地方を中心に本種のサンプリングを行い、摂食行動実験を行う。同一採集地域での塩嗜好性の境界濃度における年次変動を確認する。さらに、各地域で採集した個体群のDNAの抽出・精製を行い、3年分のサンプルをRAD-Seq解析を実施することにより遺伝的多様性と味覚(塩受容)多様性の相関を検証する。 3 電子顕微鏡による幼虫口器感覚子内外の観察 4 これまでの研究成果をもとに論文を作成する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、予定していた実験およびサンプリングの一部を実行できなかったため。 次年度使用として、サンプリング費用、試薬・消耗品の購入、論文掲載費用を計画している。なお、本年度も引き続き緊急事態宣言が発令しており、主要サンプリング地である沖縄県も含まれている。サンプリングが不可能と判断した場合は、フェロモントラップの購入およびRAD-Seq解析費用に切り替える。
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