2020 Fiscal Year Research-status Report
里山の猛禽を支える栽培体系とその地理的差異の解明:農業と生物多様性両立を目指して
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18K05683
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 剛 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (80302595)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東 淳樹 岩手大学, 農学部, 講師 (10322968)
片山 直樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (10631054)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 農地景観 / 高次捕食者 / サシバ / 生息地保全 / 栽培体系 / 気候条件 / カエル / キリギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、早急な保全策が必要とされる里地里山の生物多様性を広域にわたって効果的に保全する方策として、その象徴種である猛禽サシバに注目し、それら高次捕食者の生息地保全という視点から、農村景観を構成する農地の栽培体系(どの作物をいつどれくらい栽培するか)が、農村の生物多様性保全にどう貢献しているか、気候帯の違う複数地域において解明することを目的としている。3年目にあたる2020年度は、COVID-19感染拡大状況下であることを考慮し、調査対象をサシバの分布北限周辺の北東北と分布南西部の九州にしぼり、気象条件だけでなく、水田への注水や田植え時期が大きくことなるこれら2地域で、野外調査を実施するとともに、2018年度から3年にわたって収集したデータの解析と、論文執筆を行なった。
その結果、サシバの分布北限にあたる北東北(岩手県花巻市)の農地景観では、より温暖な関東や北九州にくらべ、田植え時期はわずかに遅い程度だが、サシバの主要な餌生物であるトウキョウダルマガエルなどのカエル類の発生が6月後半と遅く、その生息密度も低いこと、にも関わらず、サシバはカエル類の生息密度が高い場所で繁殖していること、トウキョウダルマガエルの分布には、通年をとおして水が蓄えられる小規模なため池が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
一方、サシバの分布南西部にあたる九州(福岡、佐賀、熊本)では、二毛作が盛んで田植え時期が関東よりも1か月遅い地域では、サシバの主要な餌生物であるカエル類がほとんど生息しておらず、ニシキリギリスなど大型バッタ類の生息する草地や耕作放棄地が、サシバ類の重要な生息地として機能している可能性があること、また、同じ北九州でも田植え時期の早い地域では、関東や北東北と同様に、カエル類の多い水田周辺が重要な生息地になっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初3つの地域を対象に野外データを収集する計画であった。しかし、COVID-19感染拡大の状況を踏まえ、現地自治体や農家の反応と実際の感染拡大リスクを考慮し、事前の電話やオンラインでの連絡で、関東北部でより地元農家の危惧が大きいと判断した関東北部(栃木県芳賀郡市貝町、芳賀町、茂木町)の野外調査を断念した。また、同様の理由で北東北(岩手県花巻市)の調査のうち4月から6月の調査を中止した。
その一方で、北東北と九州の調査は、ほぼ当初目的を達する形で野外データの収集を終えることができ、本研究プロジェクト全体の課題である、農地景観の生物多様性の象徴種であるサシバの、広域にわたる生息地評価を行なうための、データ解析を進めることができた。そして、九州の成果は論文を完成し、現在投稿中である。
以上より、本研究プロジェクトは、2020年度の当初目標をおおよそ達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、前年度COVID-19感染拡大の影響で野外データ収集を断念したサシバの分布中心にあたる関東北部(栃木県市貝町、芳賀町、茂木町)の農地景観での調査を実施するとともに、北東北(岩手県花巻市)でサシバの競合種と予想されるノスリの通年にわたる分布の季節変化、サシバとノスリに共通する主要な餌生物ハタネズミの分布とその分布決定に関係する景観構造の解明のための野外データ収集を進める。
その結果を、これまで3年間にわたって、サシバの分布中央と分布北限、分布西南部で収集した野外データと合わせ、高次捕食者の生息地保全という視点から、農村景観を構成する農地の栽培体系(どの作物をいつどれくらい栽培するか)が、農村の生物多様性保全にどう貢献しているか、気候帯の違う複数地域において解明することを目指す。
具体的には、サシバとノスリの分布が、それらの重要な餌生物と考えられるカエル類とネズミ類、そしてバッタ類の分布を介して景観構造および栽培体系による影響をどう受けているのかを解析しする。そして、その成果を踏まえて、サシバという里山の生物多様性の象徴種の生息地保全に有効な保全策を、広域にわたって実施するための提言を行なうことを目指す。
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Causes of Carryover |
本研究では、2020年度に当初3つの地域を対象に野外データを収集する計画であった。しかし、COVID-19感染拡大の状況を踏まえ、現地自治体や農家の反応と実際の感染拡大リスクを考慮し、事前の電話やオンラインでの連絡で、関東北部でより地元農家の危惧が大きいと判断した関東北部(栃木県芳賀郡市貝町、芳賀町、茂木町)の野外調査を断念した。また、同様の理由で北東北(岩手県花巻市)の調査のうち4月から6月の調査を中止した。それら中止した野外調査を次年度に実施するため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(2 results)