2018 Fiscal Year Research-status Report
定置網から脱出したウミガメの生理的状態を指標とした混獲回避手法の有効性の評価
Project/Area Number |
18K05684
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
塩出 大輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (40361810)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥山 隼一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (80452316)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ウミガメ / 混獲 / 心拍数 / 心電ロガー / 加速度ロガー / 血液性状 |
Outline of Annual Research Achievements |
中層・底層定置網におけるウミガメの混獲死亡削減を目的として開発したウミガメ脱出支援システムは,網内で呼吸欲求が高まったウミガメが本能的に行う行動(天井網への突き上げ)を利用して網外に脱出させる装置である。したがって,仮に網外への脱出に成功したとしても,脱出に至る過程においてウミガメは極めて強い生理的ストレスを受けている可能性があり,脱出後の生理的状態と回復過程についても適切に評価しておく必要がある。そこで本研究では,ウミガメの活動量,血液性状,心拍数の変化を定量化して脱出の前後で比較検証することによりウミガメの生理的状態の変化とその回復過程を明らかにして,当該混獲回避手法の有効性を科学的に評価することを目的としている。本年度は,アオウミガメを用いて,適切な心電ロガーの装着方法ならびに実験手順の確立を行った。心電ロガーの電極は,既往の報告で見られる頸部に挿入した場合に前肢の動きによる筋電位の影響が大きかったことから,腹甲から挿入することとした。挿入時には麻酔を行い,苦痛の軽減を図った。実験個体に心電ロガーと加速度ロガーを装着し,実験水槽(10×10×2m)に入れて,約1日間自由遊泳させた。その後,混獲状態の再現として,水槽内に設置した実験用箱網(3×3×1.5m)にウミガメを入れて約10分間の計測を行い,再度水槽内に放して更に約1日間自由遊泳させて計測を継続した。また,入網直前,網からの取り出し時,出網1時間後,2時間後,約24時間後の計5回採血を行った。その結果,特に入網時にはウミガメの強い活動の影響で心電位の波形が乱れ,心拍数の把握が困難となる場合が見られたが,入網の前後には問題なく心電位を取得できることが分かった。また,血液性状の分析から,出網直後には濃度が顕著に増加した血中乳酸値,二酸化炭素分圧が出網後には減少し,約1日後には平常値に戻ることが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ウミガメの活動量,血液性状,心拍数の変化を定量化して脱出の前後で比較検証することによりウミガメの生理的状態の変化とその回復過程を明らかにして,当該混獲回避手法の有効性を科学的に評価することを目的としている。本研究で取り扱う諸指標の中で,特に既往の研究事例が少ない心拍数の把握について,本年度において心電ロガーの電極の基本的な装着方法を確立することができた。また,心電ロガー,加速度ロガーの装着から屋外水槽での自由遊泳,実験用網への入出網と再度の自由遊泳という本実験の一連の流れとデータ取得の可能性を確認することができたことから,概ね順調に推移していると言える。一方,実験用網内に入れた際の心電位については,ウミガメの激しい動きの影響か波形が大きく乱れる事例があったことから,この点については今後の課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2年目には,初年度に確立した手法をもとに実験を継続してデータを蓄積するとともに,アカウミガメを対象とした同様の実験を実施する。その際には,非常に困難ではあるが,特に実験網内におけるウミガメの活動時に心電波形を正確に取得するための電極装着方法の改善を検討する。こうして,初年度および2年目に取得した加速度ロガー,心電ロガーのデータを詳細に分析することにより,本研究の中心課題である脱出前後の生理的状態と脱出後の回復過程の分析を行うとともに,アオウミガメとアカウミガメの種間の相違についても検討していきたい。
|