2022 Fiscal Year Research-status Report
植物方言と民俗利用、栽培生態特性から有用植物の伝播過程と保全法を探る
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18K05696
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
徳岡 良則 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 上級研究員 (20442725)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡 三徳 東京農業大学, その他部局等, 教授 (10354028)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 農業生物多様性 / 農業遺産 / 植物民俗 / 歴史生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
有用植物の歴史的な変遷を探る対象として茨城県における境木の植栽史を、主に近世時代(1600年から1868年まで)の土地紛争記録、19世紀末に描かれた迅速速測図、2011年の境木調査データ地元住民へのインタビューを用いて調査した。これらデータを統合的に分析した。その結果、近世時代の広大な共有地や村の境界における境木は、主に視覚的に目立つ高木であり、通常は松だった。一方、小規模な森林や農地の一部における境界樹としては、より小さな木が植えられていた。カマツカは18世紀中頃から植えられていたようだが、共有林が主に明治時代に割山にされたことで、その植栽が加速したと推察された。現在の農地でのウツギの優勢な利用状況や、葬祭等でのかつての儀式的な利用、関東地方における耕地開発の歴史、関西での古代の境木利用を踏まえると、その原始的な利用は中世または古代までさかのぼる可能性を示唆しています。チャノキとクワの境木は、近世または近代の作物の名残と考えられた。迅速測図や聞き取り調査の結果からはマサキやエノキの境木利用は比較的新しいものと示唆された。これらの結果から時代ごとに異なる樹種利用の歴史が今日の多様な境木樹種の残る畑地景観を形作って来たことが示唆された。今後、この茨城の境木の分析から示唆された結果について、関東、東北全域での野外調査データの収集も進んでいるため、より広域の地域間で比較を進め、有用植物の伝播の過程の検証を進めたい。 さらに有用植物の伝播を探る別のアプローチとして方言に着目した分析も進めた。愛媛県の米品種と樹木方言から植物資源の利用文化の分布境界について既往文献のデータを用いて比較したところ、それぞれ異なる地域性をもった方言の利用実態が示された。ただしこの地域性が見られた理由については定量的な分析が行えていないため引き続き検討を進める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナの流行により過去数年間、野外調査の実施が停滞してきた。この影響でデータの解析や論文の執筆にも大きな遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの境木の野外調査のデータや植物方言データの取りまとめをすすめ、研究手法の有効性を検証するとともに論文の執筆を進めたい。
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Causes of Carryover |
調査出張の機会が十分に設けられなかったことがあげられる。これらの金額と次年度以降に請求する研究費を合わせた使用計画として、調査出張や必要機器、文献の購入費用、論文の校閲費用に充てることを計画している。
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