2019 Fiscal Year Research-status Report
沿岸・汽水域生態系における人間活動の影響評価:地域的知識の活用
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18K05699
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Research Institution | Fukui Prefectural Satoyama-Satoumi Research Institute |
Principal Investigator |
宮本 康 福井県里山里海湖研究所, 研究部門, 研究員 (10379026)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 智子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (80305169)
山田 勝雅 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 特任助教 (80569195)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地域知 / 歴史情報 / 生息地の消失 / 沿岸域 / 汽水域 / 生態系保全 / 社会実装 |
Outline of Annual Research Achievements |
沿岸域と汽水域は、歴史的な人間活動で生息地の劣化と消失が著しい生態系である。地域知(古文書・地域伝承など)は過去の生息地や生物相に関する情報を含むが、これらが生態学や自然再生に活用されたことはほとんどなかった。本研究では、地域知を活用して歴史的な人間活動が沿岸域の生物に与えた影響を評価し、これを自然再生に活用することを目的とした。地域知が豊富に残る三方五湖(福井県)と錦江湾(鹿児島県)に注目し、二年目(2019年)は、沿岸生息地に関する地域知の調査を行うとともに、生態系保全に活用可能な地域知の社会実装を試みた。 三方五湖では、地域知に基づき「洪水を利用して生息地を再生する」漁業者の取組みに注目した。これは、河口部に導流提を設けて土砂が堆積する場所をコントロールし、消失したなぎさ(シジミ漁場)を再生する手法であり、江戸時代の新田開発の手法を応用したものである。この手法で再生されたなぎさでは、今日の一般的な手法(覆砂工法)で再生されたなぎさに較べてヤマトシジミを含む底生生物の生息密度が高かった。さらに、洪水を利用して再生されたなぎさは底生生物を餌とする渡り鳥(シギ・チドリ類)の採餌場所になっていた。これらの結果は、流入河川が運ぶ土砂が良質な生息地を形作るうえで重要なことを示唆するものであり、三方五湖自然再生協議会で情報共有の後、当協議会が作成した自然護岸再生の手引き(2019年度)の中で、「流域内で発生し浚渫された土砂を三方五湖の自然護岸の再生に積極的に活用する」という提言として明文化された。 錦江湾では人間活動によって新たなマングローブ生態系が生じた事例に注目した。1960年代に石油備蓄基地が建設される前のマングローブ林の状況を明らかにし、本来の分布地と同等の生態系機能を果しえたかどうかを考察した。また、種子島に現存するマングローブ林の分布調査から、移植元の推定を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度は三方五湖と錦江湾で地域知調査を計画通りに行い、さらに研究成果の一部を地域社会に実装した。当初計画では、成果の社会実装は最終年度(2020年度)を予定していたが、三方五湖自然再生協議会で実装できる機会(当協議会が作成する「自然護岸再生の手引き」で提言できる機会)を2019年度に得たため、計画を前倒しにして実施した。なお、「流域内で発生し浚渫された土砂を三方五湖の自然護岸の再生に積極的に活用する」という手引書内での提言は、2020年に実施された久々子湖(三方五湖の一部)のなぎさの再生事業で実践に移された。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2020年度は、人間活動に基づく歴史的な沿岸生息地の消失・改変とこれに伴う沿岸環境と生物相の歴史的な変化に関する地域知調査を継続し、収集した地域知のデータベースを完成させる。同時に、生態系保全に活用可能な地域知については社会実装への試みを続ける。こうした地域知のデータベース化と社会実装への試みを効率的に進めるため、関連する他の共同研究(総合地球環境学研究所プロジェクト・環境研究総合推進費を活用した共同研究)との連携を強化するとともに、地域の自然再生に資する活動組織(三方五湖自然再生協議会や三方五湖日本農業遺産推進協議会等)との情報共有を強化する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による第67回日本生態学会大会(令和2年3月)の中止により、参加を予定していた研究代表者と2名の研究分担者(いずれも参加申込済)の出張旅費が執行できなかったため。
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Research Products
(6 results)