2021 Fiscal Year Research-status Report
原発事故による放射性物質拡散が農山漁村の自然資源利用に与えた影響とその対応
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18K05701
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
山本 信次 岩手大学, 農学部, 教授 (80292176)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原発事故 / 視えない被害 / コロナ禍 / 薪利用 / 残存放射能 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナウイルス蔓延による影響で農山漁村における生産や生活における「みえない被害」の実態調査については強い制限を受け、調査による訪問が困難になったことから、既存の調査結果の精査を行うと同時に、これまでの研究成果の一部を取りまとめ『林業経済研究』誌に「原発事故が福島県内の市民活動としての薪利用に及ぼした影響」林業経済研究67(3):62-68を発表した他、新泉社より発行された共著書の研究書『どうすればエネルギー転換はうまくいくのか』に東北地方の薪利用に関わる調査結果を発表した。その概要は以下の通りである。 福島第一原子力発電所事故の発生に伴い、東日本の広範囲にわたり放射性セシウムを中心とする放射性物質が拡散し、農山漁村の自然資源に大きく影響を与え、ムラでの暮らしを継続する人々の「農的な営み」にも大きな影響を与えている。 こうした状況下においても、東北地方農山村における自然資源利用の一つとしての薪利用は継続されているものの、旧村レベルの地域内における世帯数に対して10%程度の地区が多く、必ずしも活発ではない。また伝統的な利用の残存や果樹由来薪の入手容易性など薪採取条件が整っているところが例外的に高いという状況にある。また都市との連携による薪の商品化の取り組みなども行われつつある。 さらに福島県においては市民活動としての森林からのエネルギー調達活動が盛んとなりつつあったが、原発事故影響に活動の停滞が余儀なくされている。 以上のように原発事故から10年を経ても自然資源利用への影響は依然続いており、新たな対応が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルス蔓延防止のため都市部から高齢者の多い農山村への訪問は控えなければならない状況があり調査に支障をきたした。また海外渡航も制限されたため予定していた欧州への訪問調査が実施不能となった。結果としてデータ収集を思うようにすすめることができなかった。 こうした状況下においてもこれまでの調査結果を精査し、いくつかの論文を学会誌等に掲載することができたのは僥倖であった。研究業績の発表のみに限れば、遅れを取り戻しつつあるが、これ以上の成果を出すためには、次年度からの精力的調査が不可欠である。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナの感染防御に留意しつつ、農山漁村における自然資源利用に生じている「みえない被害」を明らかにするために東北(特に福島・岩手)・北関東(群馬・栃木)を中心に事例調査を続ける。場合によっては商品流通あるいは代替品入手の関係でつながりのある関東以西への聞き取りも考えたい。 ドイツなどにおけるチェルノブイリ原発事故に関わる自然資源利用への影響調査についても継続の希望を持っているが新型コロナウイルスあるいはウクライナにおける戦争の影響で渡航が難しい場合は、メールでの聞き取り調査なども検討する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため国内調査・海外調査ともに予定通りの実行が不可能となったため。 次年度に可能な限り調査を増やして計画通り執行予定。
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