2018 Fiscal Year Research-status Report
塩湿地の生物多様性保全に向けた絶滅惧植物数種における種子発芽・生育立地特性の解明
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18K05709
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
黒田 有寿茂 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30433329)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 塩湿地植物 / 絶滅危惧種 / 種子発芽特性 / 生育立地特性 / 域内保全 / 域外保全 / 生物多様性保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,絶滅危惧の状況にある塩湿地植物数種の種子発芽特性と生育立地特性を明らかにし,その効果的な域内保全・域外保全の方法を提言することである.2018年度は,絶滅危惧塩湿地植物であるドロイ,フクドを対象に,(1)温度・光条件に対する休眠・発芽特性,(2)水流散布の可能性を調べた.また,瀬戸内海沿岸の河口域に生育する複数の塩湿地植物を対象に,(3)生育環境とフェノロジーを記録した. (1)では,恒温機・変温機を使用し,一次休眠の有無,非休眠種子の発芽可能温度域,変温要求性,光要求性などを調べた.その結果,ドロイ種子は散布後,非休眠状態にあり,10-30℃の幅広い温度帯で発芽するが,発芽において変温要求性と光要求性をもつことがわかった.また,フクド種子も散布後,非休眠状態にあり,おおよそ10-30℃の幅広い温度帯で発芽するが,発芽において若干の光要求性をもつことがわかった.(2)では,特に海流散布の可能性を調べるために,海水を模したNaCl水溶液に種子を入れ,浮遊の有無を確認した後,発芽試験を行った.その結果,ドロイ,フクドいずれの種子もNaCl水溶液に速やかに沈降することがわかった.このことから,これら2種の種子が海流散布により長距離散布される可能性は低いと考えられた.また,NaCl水溶液に30日間沈降した種子を対象に発芽試験を行ったところ,いずれの種子も発芽能力を保持していることがわかった.このことから,これら2種の種子は海水へ長期間接触しても発芽能力を失う可能性は低いと推察された.(3)では,現地踏査と観察により,瀬戸内海沿岸の河口域に生育する塩湿地植物10種の生育環境の傾向や開花結実・種子散布のおおよその時期を把握した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ドロイとフクドについては基本的な種子発芽特性を明らかにすることができ,生育立地特性の把握や域内保全・域外保全方法の立案に役立つ有用なデータを得ることができた.また,他の絶滅危惧塩湿地植物についても,種数は限られるが繁殖フェノロジーを把握することができた.一方,ドロイ,フクド以外の塩湿地植物の種子発芽特性についてはほとんどデータが得られていない.また,一部の種についてはフェノロジーの把握も不十分な状態にある.これらのことから,現在の進捗はやや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な種子発芽特性を明らかにしたドロイとフクドについては,種子保存の可能性と効果的な保存方法に関する試験を行う.その他の塩湿地植物については,種子が十分に確保できたものを対象に,温度・光条件に対する休眠・発芽反応から調べていく予定である.植生調査や環境調査といった野外調査は,すでに行った踏査の結果をもとに,瀬戸内海沿岸内で調査地の絞り込みを行い,複数地点で実施する.また,フェノロジーに関する記録も,まだ把握できていない種を中心に引き続き行う.
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Causes of Carryover |
野外調査に必要な協力者の旅費ならびに人件費・謝金を計上していたが,2018年度は種子の採取,発芽試験,フェノロジーや生育環境の記録など,代表者自身で行う調査・研究活動がほとんどをしめた.これが次年度使用額の生じた主な理由である.2019年度は,この次年度使用額を含め協力者への人件費・謝金を積極的に執行し,植生調査や環境調査といった野外調査を推進していく予定である.
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