2019 Fiscal Year Research-status Report
塩湿地の生物多様性保全に向けた絶滅惧植物数種における種子発芽・生育立地特性の解明
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18K05709
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
黒田 有寿茂 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30433329)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生物多様性保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,絶滅危惧の状況にある塩湿地植物数種の種子発芽特性と生育立地特性を明らかにし,その効果的な域内保全・域外保全の方法を提言することである.2019年度は主としてドロイJuncus gracillimusを対象に,(1)塩水湛水条件下における発芽可能性,(2)種子保存の可能性と効果的な保存方法を調べた.また,瀬戸内海沿岸と周防灘沿岸の河口域に生育する複数の塩湿地植物を対象に,(3)生育環境とフェノロジーを記録した. (1)では,NaCl水溶液の濃度を4段階(3.45%,1.72%,0.86%,0%)に調整したものを発芽床に含ませ,発芽試験を行った.前年度の試験結果を参考に,温度条件は30/15℃変温,光条件は明暗交替条件とした.その結果,3.45%および1.72%NaCl水溶液の発芽床では全く発芽が認められなかったが,0.86%では約70%の種子が発芽し,ドロイは芽生えの時期でも若干の塩分耐性をもつことがわかった.(2)では,種子を紙封筒とアルミパック(抜気封入)に入れ,低温下で保存し,約1.2年が経過したものを対象に発芽試験を行った.温度条件と光条件は前述と同様,30/15℃変温,明暗交替条件とした.その結果,紙封筒とアルミパックのいずれでも95%以上の種子が発芽し,ドロイ種子は1年程度であれば抜気封入の有無に関わらず保存可能であることがわかった.(3)では,前年度調査対象域とした瀬戸内海沿岸に新たに周防灘沿岸を加え,これらの河口域に生育する塩湿地植物15種の生育環境の傾向やフェノロジー(発芽・展葉・開花結実・種子散布など)の時期をおおよそ把握した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ドロイについては,塩水湛水条件下における発芽可能性や種子保存の可能性など,生育立地特性の把握や域内保全・域外保全方法の立案に役立つ有用なデータを得ることができた.また,絶滅危惧種を含むいくつかの塩湿地植物について成長・繁殖に関するフェノロジーを把握することができた.一方,ドロイや前年度発芽試験を行ったフクド以外の塩湿地植物については種子発芽特性に関するデータがあまり得られておらず,フェノロジーについても一部の種で開花期を把握できていないなど不十分な点がある.植生調査や環境調査もデータを蓄積するまでには至っていない.これらのことから,現在の進捗はやや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
ドロイとフクドについては,種子保存の可能性と効果的な保存方法に関する試験を引き続き行う.その他の塩湿地植物については,種子が十分に確保できたものを対象に,温度・光条件に対する休眠・発芽反応から調べていく予定である.植生調査や環境調査といった野外調査は,瀬戸内海沿岸と周防灘沿岸ですでに行った踏査の結果をもとに,調査地の絞り込みを行い,複数地点で実施する予定である.フェノロジーに関する記録は,開花期などを把握できていない一部の種を対象に補完的に行う.
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Causes of Carryover |
野外調査に必要な協力者の旅費ならびに人件費・謝金を計上していたが,2019年度は前年度と同様,発芽試験,生育環境やフェノロジーの調査など,代表者自身で行う研究活動がほとんどをしめた.これが次年度使用額の生じた主な理由である.今後は,この次年度使用額を含め協力者への人件費・謝金を積極的に執行し,植生調査や環境調査といった野外調査を推進していく予定である.
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