2019 Fiscal Year Research-status Report
ヴェルサイユ宮殿庭園の管理運営手法と復元対象年代の設定について
Project/Area Number |
18K05715
|
Research Institution | Minami Kyusyu University |
Principal Investigator |
平岡 直樹 南九州大学, 環境園芸学部, 教授(移行) (20389571)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 庭園管理 / トリアノン / マルリー / オランジュリー / トピアリー / 鉛管工 / WTO政府調達協定 / EPV |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴェルサイユ宮殿庭園の管理運営実態の詳細把握を柱として研究を展開した。 (1)ヴェルサイユ宮殿全体の管理の特徴 ヴェルサイユ宮殿・博物館管財局が発行する活動報告書を中心に分析を行った。その結果,全体整備計画との整合性をはかり,予算の効率的な執行の確認を常に取っていること,OPPIC(文化遺産・不動産プロジェクト運営局)との合意遵守を心掛けていること,公的事業として,WTO政府調達協定の視点から公平な立場での業務外注を表明し実行していることが判った。 (2)庭園の管理組織体制の特徴 部門詳細活動報告及び聞き取り調査を中心に分析を行った。その結果,世界的な歴史庭園として,最良の状態に整備して一般に公開する立場を強く認識した管理体制を心掛けていること,伝統的施設の継続による技術の永続的な継承をはかる努力をしていること、ただし,噴水課の鉛管技師などに技術継承の断絶の危険性があることも判明した。また,園内で使用する数十万本の植物のほぼ100%の自家生産体制を整えていることも判った。具体的な施設や技術面では伝統の継承をはかる一方で,環境対応,予算執行,法令順守等は最新の理念を積極的に取り入れている。 (3)庭園の日常管理の特徴 管理部門の責任者や現場スタッフへの聞き取り調査及び現地調査を中心に分析を行った。その結果,植物管理の適期,観光シーズンの兼ね合いから3~10月,特に夏期に業務が集中すること,日常業務への安全性,農薬無使用など環境への配慮を怠らないことが判明した。また,ヴェルサイユ庭園の特徴の一つであるトピアリーには幾何学的形のみを用い,動物や人間の形を用いることが禁止であることについては,幾何学的形態の使用は,植物が規則正しく形を変えて行くことや,人工物は人間の創造性の賜物であることの表現であり,人間の自然に対する優位性を明瞭に示していることの証として認識されていることが判った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ヴェルサイユ宮殿庭園の(1)管理運営体制と予算,(2)復元の対象時代の設定,(3)日常管理の実際-管理機器・用具類,(4)独自の企画運営の特徴を明らかにするという4つの柱から構成されている。 (1)管理運営体制と予算については,宮殿全体の管理運営及び日常の管理運営体制の特徴を把握することができた。また予算については,大枠の把握は出来たが庭園の管理運営に関わる詳細な予算の把握までには至っていない。 (2)復元の対象年代の設定については,どの時代の庭園形態に戻すか,指導者層と現場の担当者と間に大きく意見の食い違いがあることも判明した。管理者が歴史的に最も栄えた時期への回帰を望むのに対し,管理担当の造園技術者達には,「庭師の王にして王の庭師(le roi des jardiniers,le jardinier des rois)」とまで言われるル・ノートルへのオマージュがあることが判った。 (3)日常管理の実際-管理機器・用具類については,維持管理の現場において,型に合わせたトピアリー整形や古い鉛管水路網等の補修業務が,伝統技術の継承であると同時に他所で同様な技術者養成がなされていないため熟練技術者確保のために必要不可欠であることも明らかになった。さらに農薬を使わない庭園の維持管理が,大型機械導入による合理化や維持管理水準の引き下げ,農薬不要の品種への転換などの試行錯誤を伴いながらも積極的に進められていることがわかった。 (4)独自の企画運営については,オランジュリーなどの庭園施設の貸し出しやイベント開催等についていくつかの事例があることについて把握することができた。今後は詳細な内容を記録した文献資料の有無について調査を行っていく必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)管理運営体制と予算 庭園実質を実質的に管理しているヴェルサイユ庭園管理課とトリアノン・マルリー庭園管理課,及び噴水課の予算について,管理運営に関わる予算配分の調査を行う。 (2)復元の対象時代の設定 これまでに復元された場所の年代と当時の形態,復元の程度を具体的な事例を取り上げて調査分析を行う。 (3)日常管理の実際-管理機器・用具 実際に機器や用具を用いて管理している場面で調査観察を行うのが最良であることから,引き続き日常的な管理の現場に出かけて調査を行う。それ以外のものは,道具類の保管庫への立入り許可を得て担当者への聞き取り調査を実施する。 (4)独自の企画運営 オランジュリーや池泉等の庭園施設の貸し出しやイベント開催等について,活動報告書やその他文献を見出し,貸出料や具体的利用方法などの分析を行う。 上記の4点について,現地調査や文献調査等を継続して実施し,それぞれについての分析考察を行う。最後にこれらの調査の分析結果の総括を行っていく。なお,新型コロナウイルス感染防止の理由により,現在本研究の調査対象地があるフランスは日本人に対して入国制限措置を取っているため,助成事業の期間中に一切渡航ができない可能性がある。その場合は,現地の協力者への調査委託とSNSを利用した調査に切り替えることも検討する。
|
Causes of Carryover |
調査の協力者への謝金の支払いに際し、調査先において現地通貨(ユーロ)による払いを行ったため、円―ユーロ間の為替のレート換算上、予算金額に正確に合わせることができず1円の余りがでた。次年度の物品費と合わせて使用する。
|