2019 Fiscal Year Research-status Report
近世末期から近代に生じた日本庭園の意匠の地域性と現代への継承―出雲地方を中心に
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18K05716
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
中島 義晴 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 文化遺産部, 室長 (50321625)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 出雲地方 / 近世庭園 / 近代庭園 / 庭園の地域性 / 庭園文化の継承 / 短冊石 / 飛石 / 茶の湯 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世末期から近代にかけて日本のいくつかの地域において、その地域独特の意匠をもつ庭園群がつくられた。本研究で主な対象とする出雲地方には、住宅などの座敷に面する平坦地を白砂敷きとして、短冊石という細長い長方形の切石や円形の石を飛石に用いて主景とする庭園が数多くあり、それらの意匠が現代も地域に深く根付いている。本研究では、このような地域的な特徴がどのように生まれたのかを明らかにすることを目的とする。 2019年度は、庭園における短冊石などの切石の使用について、江戸時代の茶書と作庭書による情報収集および現地調査を続け、出雲地方の庭園のように地域的な特徴をもつ庭園に関する情報収集・現地調査をおこなった。現地調査は京都府・岡山県・島根県・愛媛県内の約20件の庭園を対象とした。その他、出雲地方の庭園の特徴について、島根県内の造園技術者への聞き取りをおこなった。 その結果、江戸時代の茶書にいくつかの事例がみられ、安土・桃山時代に古田織部が切石について説明した記録が『織部正殿聞書』にあること、また、桂離宮などに残る初期の事例の多くには古田織部の弟子である小堀遠州の関与が伝えられていることなどが明らかになった。さらに、文献に描かれた書院庭の切石は、前後の飛石とともに直線的に配置されるものが多く、露地とは異なる特徴が見出された。これは近代の出雲地方の庭園にもあてはまる。地域的な特徴もつ庭園については、愛媛県宇和島にも存在する可能性があり現地調査をおこなった。 成果の公表については、古田織部による説明の記述と、桂離宮、高台寺、南禅寺などの飛石の事例についてまとめ、2019年10月に日本造園学会関西支部大会で発表した(「日本庭園の飛石における切石の利用について―古田織部・小堀遠州との関連から―」『2019年度 日本造園学会関西支部大会 研究・事例発表要旨集』日本造園学会関西支部 p.9-10)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の成果を踏まえ、短冊石のみならず、正方形や円形など、庭園の飛石に用いられた切石全体について、情報収集・現地調査をおこなった。さらに、江戸時代の茶書や作庭書から書院庭と露地の切石の特徴的な違いが見出され、今後の研究の方向性や研究対象については、茶の湯と書院に焦点を定めることが可能となった。地域的な特徴もつ庭園についても新たな事例の現地調査をおこなうことができた。 また、成果の一部を学会で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
露地と書院庭における切石の利用に関する情報収集を続け、並行して地域的な特徴を持つ庭園の構成要素や作者について文献調査・現地調査をおこない、地域性の発生・普及等について分析する。現地調査の対象は、京都・島根・岡山・大分をはじめ、主として関西・中国・九州地方の庭園とする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染対策防止のため、予定していた大分県内の庭園の現地調査を2020年度に延期することとした。その旅費を使用して、2020年度に大分県で調査を行う。
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