2018 Fiscal Year Research-status Report
摂氏0℃前後から開始するシラカンバの脱馴化初期プロセスの解明
Project/Area Number |
18K05718
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
春日 純 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (40451421)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 北方樹木 / 脱馴化 / シラカンバ / トランスクリプトーム / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
越冬性の植物は、冬季の寒冷環境下で生存を続けるために、秋季に低温馴化と呼ばれる過程によって自身の耐寒性を向上させる。一方、冬季に最大となった耐寒性は春季の成長再開に向けて脱馴化という過程によって低下する。近年、シラカンバを用いた研究において、細胞によっては脱馴化が氷点下数度から開始することが明らかとなった。本研究では、厳冬期に採取して冷凍庫で休眠状態を維持したまま保存したシラカンバの枝を-5~4℃で脱馴化処理し、それによる転写産物やタンパク質の変動を網羅的に解析することで脱馴化の初期課程で起こる生理的な変化の解明を試みている。また、氷点下温度で脱馴化を開始するシラカンバの木部柔細胞について、温度処理とソルビトールによる高浸透圧処理を組み合わせることで、凍結環境下で細胞にかかる脱水ストレスと脱馴化開始との関連性の検証を行っている。 ソルビトールによる高浸透圧処理については、2018年の8月までに予備的な実験を行った。この実験では、シラカンバの枝の木部組織の樹液を1.08 Mと2.69 Mのソルビトール溶液で置換し、0℃もしくは4℃に1週間置いた後に木部柔細胞の耐寒性を評価した。実験を行う前には、細胞に脱馴化が見られない-5℃と同程度の脱水ストレスをもたらす2.69 Mソルビトール処理を行った組織では樹液を水や1.08 Mソルビトール溶液で置換した組織に比べて細胞の耐寒性の低下は起こり難いだろうと予想したが、実際には、より高濃度のソルビトール溶液で処理した細胞の耐寒性が0℃および4℃でともにより大きく低下するという予想とは逆の結果が得られた。今後、同様の実験を繰り返し行うことで本結果の再現性を確認するとともに、2020年に転写産物の解析を行うことで脱馴化の初期課程で起こる変化との相違点や類似点を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震による2日近くにわたる停電の影響で研究に用いるために冷凍保存してた試料が溶けてしまい、全て廃棄せざるを得なかった。本研究では、全ての実験を通して厳冬期に採取して-20℃で数か月以上冷凍保存をした樹木の枝を用いるため、2019年の2月に再度試料を採取するまで、研究が停滞した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、樹木組織の脱馴化過程におけるトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析を行うことを計画している。上述の通り、地震による停電で研究の進行がほぼ1年間停止してしまった。この遅れを取り戻すため、トランスクリプトーム解析より先に、解析手法に慣れているプロテオーム解析を行うこととする。プロテオーム解析の結果をもとに、トランスクリプトーム解析に供試する試料の処理条件数を絞り込み、研究の加速化を目指す。また、申請時に2020年度に予定していたアポプラストの水分をソルビトール溶液で置換する実験は、予備的な試験を2018年度から開始した。当該処理による細胞の耐寒性への影響評価は、2019年度から開始する。
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Causes of Carryover |
北海道胆振東部地震による停電の影響で2018年度に予定していた多くの実験を行うことができなかった。次年度使用額の多くは、トランスクリプトーム解析に使用する予定であったものである。2019年度は、当初予定していたプロテオーム解析を行うとともにトランスクリプトーム解析も進めるため、それぞれの解析を2019年度請求分と2018年度からの次年度使用額を用いて行う。
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