2019 Fiscal Year Research-status Report
摂氏0℃前後から開始するシラカンバの脱馴化初期プロセスの解明
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18K05718
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
春日 純 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (40451421)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 北方樹木 / 脱馴化 / 冬芽 / トランスクリプトーム / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
秋に低温馴化と呼ばれる過程によって耐寒性を向上させた越冬性の植物は、厳冬期以降、気温の上昇を感じて耐寒性を低下させる。これを脱馴化と言うが、脱馴化についての研究例は低温馴化のものに比べて少なく、その機構については十分に理解されていない。本研究では、これまで、シラカンバの枝を用いて北海道のような寒冷地で生育する樹木で起こる脱馴化機構の解明を目指してきた。2019年度からは、PagterとWilliams(2011)が温帯性の樹木において、枝に比べて冬芽で脱馴化が早く見られたという報告をしていることから、樹木の冬芽の脱馴化についても研究を開始した。 冬芽の脱馴化を調べるにあたっては、シラカンバに比べて耐寒性に関する知見が集積されているブドウの冬芽を用いることにした。また、ブドウの冬芽はシラカンバよりも大きく、顕微鏡観察や成分の抽出なども行いやすい。2019年度は、冬芽の脱馴化過程の研究が大きく進展した。シラカンバの木部柔細胞は、氷点下数度から脱馴化を開始するが、ブドウの冬芽も-2℃という比較的高い氷点下温度から脱馴化を行うことを確認した。氷点下温度ではブドウの幹や枝に含まれるほとんどの水分は凍結するため、冬芽が過冷却を続けるためには、その基部の組織が枝から冬芽内部への凍結の伝播を防ぐバリアとして機能する必要がある。4℃と20℃で脱馴化した時の冬芽全体の凍結温度と冬芽の中の原基のみの凍結温度を調べたところ、4℃で脱馴化処理した場合とは異なり、20℃に数日置くと冬芽の基部のバリア機能が低下することを示唆する実験結果を得た。今後、電子顕微鏡観察などにより、耐寒性の低下に伴って冬芽の基部で起こっている構造変化を調べていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温帯性樹木を用いた研究で、枝に比べて冬芽で脱馴化が早く起こるという報告があることから、2019年度からシラカンバの枝を用いた実験と共にブドウの冬芽の脱馴化機構を調べる実験も開始した。シラカンバの枝を用いた実験では予定を上回る進歩は無かったが、冬芽を用いた研究において、樹木の脱馴化機構の解明に向けた重要な実験結果を蓄積することができた。 様々な温度に設定した人工気象機などで処理することで、ブドウの冬芽でもシラカンバの木部中細胞と同様に氷点下数度から脱馴化を開始することを明らかにした。また、十勝における初春の気温の日変化を模倣した温度変化プログラムを作り、その中で冬芽がどのように耐寒性を失うのかについて検討を始めた。2019年度に行った研究によって、今後、耐寒性低下のメカニズムを調べるために必要な人為的な温度処理条件を決定するための十分な情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、引き続き、摂氏0℃付近の比較的低温条件で見られる脱馴化過程においてシラカンバの枝の組織で起こる可溶性タンパク質変動の解析を進める。また、ブドウの冬芽を用いた実験において、ある温度条件では冬芽の基部のバリア機能が低下することを示唆する結果が得られたことから、この時にバリア機能を果たす組織の細胞でどのような構造変化が起こっているのかについて、光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いて観察する。これらの実験を通して、脱馴化過程で樹木の耐寒性が低下する機構の解明を試みる。
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Causes of Carryover |
2018年に起こった北海道胆振東部地震による停電の影響で1年間研究が遅れ、未だに行うことができていないトランスクリプトーム解析に使用予定であったものが次年度使用額の多くを占めている。2020年度は、当該年度分請求分と次年度使用額を合わせて、プロテオーム解析・トランスクリプトーム解析を進めるとともに、進歩状況に応じて冬芽の組織観察のための試薬類の購入も行う。
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