2019 Fiscal Year Research-status Report
乾燥地で進化してきた樹木の強い光に対する防御機構と葉の形質との関連
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18K05726
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻 祥子 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90791963)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光合成 / 光阻害 / 環境応答 / 乾燥ストレス / 環境適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、乾燥が強く多くの樹種が日中の強い光にさらされる小笠原諸島で、乾燥が著しい夏季(8月)に30種類にわたる現地の優占種について葉の採取を行った。葉は強光下の日中と、強光ストレスが回復している夜明け前に採取し、凍結保存したものを色素分析に用いた。これにより、光阻害のリスクを多様な樹種がどのような戦略で乗り越えているかを網羅的に明らかにし、他の形質との関係性を比較する。光阻害に関しては、前年度に引き続き次の実験を行った。強光条件での光阻害の危険性の増大について、「高い生産性」と「光阻害の回避」との間のジレンマ解消について、生活史に着目して樹種選定などを行った。長きにわたって恒常的に経験する光阻害のリスクについて、草本から落葉樹・常緑樹も含めた多くの樹種に関して着目し実験を始め、次年度も引き続き測定を続ける。 光阻害に関する測定に加えて、乾燥に関わる環境応答として低圧環境や重力応答など様々な環境応答に対する光合成機能維持の解明を進めることができた。環境適応と樹木枯死の関係を明らかにするために、人工的な環境制御装置を利用して光合成研究を行なった。温度、湿度、CO2濃度と光強度を一定の条件下に統一し、低圧条件下における樹木の生長と光合成能力の違いを比較した。同時に重力応答と乾燥の関係に注目して、重力応答に関する葉の組織分析を進めた。また、多樹種の林冠木の熱帯林研究のデータを再解析し、大気飽差に対する日中の気孔反応性と葉の特性に関する研究を行い、論文投稿や学会発表を行った。 今後は最終年度に向けて、以上の実験を継続しつつ、次のことを明らかにしていく予定である。植物の光阻害に対する耐性能力について、強い乾燥と光阻害耐性の生理機構を、他の様々な形質と関連付けて解析し、光阻害耐性を達成する戦略が他の形質と関係してどのようにして選ばれているかについて明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小笠原諸島における葉の採取を光強度の違う条件下で現地採取をすることができた。また色素分析の実験環境を整えて分析に着手できた。光合成関連の測定技術の習得と、生育および光阻害速度と光阻害修復に関する予備実験等を引き続き進めることができた。光阻害修復実験については、実験対象樹種の選定と実験に関する薬品の濃度検討や光強度の環境設定等の条件検討を固めた。これらの各光阻害耐性能力の測定については恒常的に効率良く実験を遂行することができている。一方で、多種の植物に関して実験を行うため、種類の違いによる思わぬ結果からの実験のやり直しや条件検討を行うことに時間を要している。また、実験系の条件検討に時間を要してしまったため、今年度は野外の光阻害実験まで実施する予定であったが達成できなかった。加えて、色素分析作業については、今年度使用していた測定装置が旧式の装置である影響から、故障などの不具合対応や、オートサンプラーが使用できないという作業効率の悪さに改善の余地があった。今後、色素分析については、オートサンプラーが使用可能な別の比較的新しい分析装置の使用が見込めるので、色素分析に関する作業を大幅に進めることができる。これまで確立できた方法により光阻害実験の多種間比較を継続しデータの収集を加速的に行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
稚樹実験については、次のような予定で光阻害に関する生理メカニズムの解明を継続して進める。光阻害耐性について、形態的特徴と生理的特徴(過度に吸収した光エネルギーを葉内でどのように消去するか)の関係を多種間で評価する。葉の色素分析についても継続して行い、強光条件下と光阻害修復後の条件下で、植物の光阻害の程度と光阻害体制形質を明らかにする。生理的特徴については、光阻害耐性の光合成に使われなかった過度の光エネルギーをどのように消費しているかの生理機構を明らかにする。色素分析の結果から既に揃い始めているので、強光下の陽葉の光呼吸による過度の光エネルギーの消散と、キサントフィルサイクルによる過度の光エネルギーの消散について論文投稿を視野に入れて議論する。 関連するその他諸形質については、葉の諸形質(葉寿命、葉の厚さ、光合成の窒素利用効率、気孔コンダクタンスなど)を計測するとともに、形態的特徴と生理的特徴との関係を明らかにする。さまざまな樹種の稚樹(ポット苗)を利用した室内実験と、成木も対象に加えた野外調査を適切に組みあわせて研究を進める。複数の樹種を利用することで、光阻害と乾燥ストレスへの耐性反応の種間差を明らかにする。室内実験では成木を研究対象とすることは困難であるため、環境条件の異なる複数の時期における野外調査も行う。野外では、Leaf economics spectrumに関するパラメータ(光合成、LMA、窒素濃度)と光阻害に関連する主要パラメータを測定する。生育環境で強光下でのクロロフィル蛍光測定により光阻害の定量化を行い、クロロフィル蛍光、光強度等のデータとあわせて解析を行う。光阻害の程度(光防御)について、主に1)葉の光吸収率、2)熱放散、3)壊れた光化学系IIの修復 に注目し、異なる条件で育成した苗木を用いて引き続き検証する。
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Causes of Carryover |
今年度は主に、色素分析のための実験装置の整備やトラブルシューティングに時間を要した。また光阻害実験についても、樹種の違いにより実験の条件検討に時間を要した。そのため、当初予定していたような実験の遂行速度を果たせず、経費の使用も最低限に留まった。加えて、年度末に予定していた学会参加やそれに伴う出張等々が取りやめとなった影響により、当初予定していた予算使用に至らなかった。 今後は今年度確立できた実験方法により多樹種を用いた実験を効率よく行い、野外における測定項目等も増やすことを予定している。新たな測定環境を整えるための費用として今年度の費用も使用する。また、今年度の研究遂行の律速要因となった色素分析の測定環境を大きく改善し、分析効率を上げる予定である。この色素分析に関する新しい分析装置に伴う薬品やシリンジ等の購入に今年度の未使用予算を使用する。そして、次年度が最終年度となるため、論文出版に関わる費用や薬品などの消耗品費、さらに、必要な場合は野外調査に伴う旅費等に費用を使用することを計画している。
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