2020 Fiscal Year Research-status Report
乾燥地で進化してきた樹木の強い光に対する防御機構と葉の形質との関連
Project/Area Number |
18K05726
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻 祥子 京都大学, 生命科学研究科, 研究員 (90791963)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 光合成 / 光合成色素 / 光阻害 / キサントフィルサイクル / カロテノイド / ストレス応答 / 強光ストレス / 乾燥ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
植物のストレス応答は生存戦略として重要な要素の一つである。光は光合成に必要だが、光合成で使い切れない過剰エネルギーは活性酸素を生み出し、植物にとって害となり得る(光阻害)。植物の葉においてキサントフィル類は、弱光条件ではビオラキサンチンとして蓄積し、光エネルギーが過剰となる条件ではゼアキサンチンに変換される(脱エポキシ化)。その結果、光合成色素クロロフィルが吸収した過剰エネルギーが熱として放散(熱放散)され、これは光阻害回避の主要な役割を果たしていると考えられている。 本研究では、小笠原諸島父島において強光・高温にさらされる夏季に、在来種および外来種を含む草本・木本23種類の植物に関して、異なる光強度下(夜明け前・曇り・晴れ)での葉の色素組成と機能形質の分析を行った。光ストレス応答に関しては、キサントフィルのクロロフィルあたりの量と脱エポキシ化度合(DPS)を指標に評価した。DPS値が高いほどキサントフィルを介した光エネルギーの熱放散が起こっていることを意味する。これにより、陸域生態系の保全にとって重要である海洋島における外来植物種の侵略を可能にする要因について考察した。 在来種は外来種と比較してキサントフィル総量が多く、また、直達光下と暗条件下でのDPSが高い傾向があった。これらの結果は、在来種が日中の強光条件に対して、積極的にキサントフィルを介した熱放散を行なうことで光阻害を回避していることを示唆する。一方で、外来種のDPSは直達光下でも暗条件下でも低い傾向があり、外来種では葉の形態などの熱放散とは異なる機能形質でストレス環境に適応している可能性が示唆された。以上の結果から、外来種は在来種とは異なる環境適応戦略で強光乾燥ストレスに晒される小笠原諸島の生態系への侵略に成功していることが推測された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小笠原諸島における24種の植物に関して、葉のサンプリングを行ったものを凍結乾燥試料の作成ができた。これらの試料の色素分析および、小笠原諸島における同23種類についてのデータ解析を行い2つの学会で学会発表を行えた。また2020年5月に2019年度からとりかかっていた乾燥と葉の気孔応答に関する論文がTreesにアクセプトされた。 HPLCを用いた光合成色素分析の特性については、小笠原諸島樹種の葉の特性と併せての合計48項目について、PCA解析と相関関係検定(Spearman相関)を行った。このことが今年度の大きな成果であり、当初の計画を実現できると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
草本から木本植物(落葉種と常緑種)を含む多種の植物の稚樹を用いて、光阻害実験を室内実験から再度行う。これまでは実験の条件検討に時間を要してしまい、成果報告に至っていない実験項目を最終年度で行う。同時に、成木も対象に加えた野外調査を適切に組みあわせて研究を進める。 室内実験には、似た成長段階の複数個体を利用でき、また光環境と水環境を独立に変えて行う。この利点を利用して、主に光強度を調節し、光阻害修復に関する薬剤を用いて光制御下で光合成パラメーターをPAMにより実測する。同時にLI6400によっても光合成特性を測定し、環境への依存性を明らかにする。これらの項目を複数の植物について行うことで、光阻害などの強光に対する応答の種間差を明らかにする。 光阻害の程度(光防御)については、主に1)葉の光吸収率、2)熱放散、3)壊れた光化学系IIの修復 に注目し、光環境の異なる条件で育成した苗木を用いて検証する。Leaf economics spectrumに関するパラメータ(光合成、LMA、窒素濃度)と光阻害に関連する主要パラメータを測定する。さらに強光下でのクロロフィル蛍光測定により光阻害の定量化を行い、クロロフィル蛍光、光強度等のデータとあわせて解析を行う。また、2020年度の学会発表の内容(HPLC分析と解析)を論文に投稿する。
|
Causes of Carryover |
今年度は主にサンプル採取と保存、また色素分析および色素定量実験に多くの時間を要した。色素分析を行う研究室も2019年度に既に一部行っていた分析装置の研究機関とは別の研究機関に変更した。このため、色素分析装置の立ち上げや抽出方法や組成液の条件検討も行ない、2019年度に既に分析を行なったいたサンプルについても再度分析をやり直しが必要となった。これにより、当初の予定していた光阻害実験を行えなかったため、次年度への延長申請に至った。 使用額に関しては、色素分析の定量分析に必要な標準試薬の購入に助成金を使用した。光阻害実験に関連する実験については、薬品の購入を行なったものの、多くの植物について十分な実験を遂行するに至らなかった。またコロナ禍の状況もあり、研究打ち合わせや学会発表などがオンライン形式となり、当初予定していた旅費などの移動や滞在に伴う大きな予算を使用せずに今年度を終了したため次年度への使用額が生じた。 次年度は最終年度となるので、光阻害実験を中心に対象植物を多種間で実施し、可能な限りの測定項目等のデータ取得を行い解析に備える。新たな測定環境を整えるための費用として今年度の費用も使用する。また、論文出版に関わる費用や薬品などの消耗品費、さらに、必要な場合は野外調査に伴う旅費等に費用を使用することを計画している。
|