2019 Fiscal Year Research-status Report
針葉樹の乾燥抵抗性機構:異なる乾燥強度下での通水機能の低下と回復機構の解明
Project/Area Number |
18K05729
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
三木 直子 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (30379721)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 水輸送 / 空洞化 / 通水阻害 / 再灌水 / 回復 / 乾燥ストレス / 針葉樹 / 乾燥地 |
Outline of Annual Research Achievements |
乾燥により通水機能が低下した状態で再灌水を行い通水機能の回復が実際に起こるかを確認した。十分な灌水の後に灌水を停止し異なる乾燥強度下においたJ. sabina個体について再灌水を行った。樹液流速度は測定期間を通じて継続的に自動測定した。湿潤時、乾燥時、再灌水後において樹体の水分状態を評価するために葉の含水率を測定し、葉の水ポテンシャル(Ψleaf)を算出した。また葉の生理活性を調べるために光合成速度、気孔コンダクタンス、蒸散速度を測定した。木部仮道管の水分布割合は再灌水後に採取した幹木部の凍結試料から求めた。その結果、乾燥程度の小さい個体では、再灌水後のΨleafは湿潤時と同程度の値を示し、一方乾燥程度の大きい個体では、再灌水後のΨleafは湿潤時より低い値を示した。乾燥に伴い全個体で樹液流速度がほぼ停止し、ガス交換速度も極めて低い値を示した。しかし再灌水を行うと、乾燥程度の小さい個体では樹液流速度、ガス交換速度ともに回復した。一方、乾燥程度の大きい個体ではいずれも回復しなかった。回復した個体については木部仮道管の約20%は水で満たされていたが、回復しなかった個体ではほとんどの仮道管が空洞化していた。以上より、乾燥程度の大きい段階では空洞化により通水機能を損失したため再灌水により回復しなかったと考えられた。一方、乾燥程度の小さい段階では、水で満たされた木部仮道管がある程度残っていたことから再灌水後にこれらの仮道管での通水が再開された可能性が考えられた。したがって、J.sabinaは乾燥が極端に進行すると回復不能な仮道管の空洞化が生じ、新しい仮道管の形成が間に合わなければ枯死する可能性があるが、乾燥程度が小さければ壁孔の水の通りやすさが低下し通水機能が低下することで、葉からの水分損失を抑えるとともに空洞化による通水機能の損失を回避している可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた「乾燥解除後に壁孔の通水抵抗の低下によって水輸送の回復が生じるかどうかの検証実験」について、おおよそ行うことができた。今後は、壁孔の状態の確認などのいくつかの補足実験を行う予定としている。今後これらの成果を論文化する目途がたったことなども踏まえて、全体的におおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、乾燥解除後に壁孔の通水抵抗の低下によって水輸送の回復が生じるかどうかの検証実験のうち、壁孔の状態の観察や乾燥時の水分状態の評価のための、計算式の作成等を進めていく予定としている。これらの結果をもとに、乾燥抵抗性機構として重要な土壌水分条件の変動下における通水機能の維持機構について明らかにする予定としている。また、学会発表や論文化についても進めていく。
|
Causes of Carryover |
次年度(令和2年度)に、乾燥地関連の国際学会であるDT12等が開催される予定であることから、本年度の成果についての学会発表を次年度に行うこととしたため。
|