2018 Fiscal Year Research-status Report
広域・長期観測データによる採餌環境動態からのツキノワグマの生息・出没機構の解明
Project/Area Number |
18K05730
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
藤木 大介 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30435896)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ツキノワグマ / 出没予測 / 豊凶 / 長期観測データ / 広域スケール / ブナ / ミズナラ / コナラ |
Outline of Annual Research Achievements |
兵庫県内のブナ科樹種の堅果の豊凶がツキノワグマ(以下、クマ)の人里への出没へ及ぼす影響を明らかにするために以下の分析を行った。2005年~2016年の期間において兵庫県内の多地点で収集されたブナ、ミズナラ、コナラの堅果の豊凶データと、地域住民から行政に報告されたクマの出没情報データを収集した。さらに一般化線形モデルを用いて、堅果の豊凶データから秋季(9~11月)のクマの出没情報数がどのように説明できるか分析した。 その結果、秋季におけるクマの出没情報数の年変動には、ブナ、ミズナラ、コナラのいずれの堅果の豊凶も影響を及ぼしていることが明らかになった。また、単一樹種の豊凶データを用いるより、2種、3種と樹種の数を増やした方がクマの出没の年変動をより精度高く再現できることが明らかとなった。クマの分布域内の植生構成を分析した結果、クマの分布域内では、これらの3樹種が広葉樹林内で優占して分布していることが判明した。3樹種のうち、コナラ林は全県的に優占して分布しているのに対し、ブナ林の分布はごく一部の地域に限定されていた。しかし、クマの出没コア地域ではブナ林の分布量が比較相対的に多く存在する結果、ブナの堅果の豊凶はクマの出没に無視できないレベルの影響を及ぼしていた。 以上の分析結果から、県域スケールでの秋季のクマの人里への出没の年変動は、県域内で優占しているブナ科樹種の堅果の豊凶によって強く説明されることが明らかとなった。また、県域の中で優占している複数のブナ科樹種の堅果の豊凶を観測することで、高い精度でその年の秋のクマの出没レベルを予測することが可能であることが示唆された。 これらの研究成果はJournal of Forest Research誌に原著論文として掲載されるとともに、森林防疫誌において解説記事が掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の4つの研究課題を設定している。1)ツキノワグマ(クマ)の生息密度の空間変異に影響を及ぼしてる景観要素を明らかにすること。2)ブナ科樹木の資源量とその豊凶変動がクマの人里への出没に及ぼす影響を明らかにすること、3)ニホンジカの影響による落葉広葉樹林の下層植生衰退がクマの生息密度分布やその増減に及ぼす影響を明らかにすること、4)共存のための管理に向けたシナリオ分析。研究初年度は、このうち2)の課題に取り組み、当初の研究目的に掲げた内容に沿った研究成果を上げることができた。また、研究成果を原著論文として、国際的な学術雑誌に発表するとともに、日本語での解説記事を専門誌に執筆することができた。以上のことから、研究初年度に関しては、概ね順調に研究を進捗することができたものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度において、ブナ科堅果の豊凶とクマの人里への出没の関係の研究を進める中で、出没に影響するブナ科樹種は地域の中で特に優占している樹種であることが明らかになった。一方で、植生分析の結果、兵庫県下のブナ科樹種の資源構成は様々な地域間変異があることも明らかとなった。さらに市町レベルでのクマの出没の年変動パタンを予備解析した結果、クマの出没パタンは市町間変異があることが示唆された。これらのことから、人里へのクマの出没メカニズムをより深く理解するためには、ブナ科堅果の豊凶とクマの出没の関係について市町レベルの視点からの理解も必要であることが浮き彫りとなった。このような市町間のクマの出没パタンの変異を解明することは、研究課題(1) (クマの生息密度の空間変異に影響を及ぼしてる景観要素を明らかにすること)とも関連していることが予想されるため、今後はこのような観点からの研究も含めて展開していくことを計画している。 次に、クマの人里への出没の変動に関しては、堅果の影響による出没変動が着目されることが多く、春から夏の変動についてはこれまでほとんど着目されていない。しかし、初年度に分析を進める中で、兵庫県では近年、秋季よりも春季から夏季の出没数の増加が特に顕著になってきていることが示唆された。筍はクマに取って初夏の重要な餌資源と考えられるが、兵庫県ではニホンジカの影響によりササ類の資源が広域に渡って減少してきており、このような植生変化がクマの出没動向と関係している可能性がある。したがって、季節間で異なるクマの出没動向メカニズムの解明は、研究課題(3)(ニホンジカの影響による落葉広葉樹林の下層植生衰退がクマの生息密度分布やその増減に及ぼす影響を明らかにすること)とも関連していることが予想されるため、今後の研究の推進においては、このような観点からも研究も含めて展開していくことを計画している。
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Causes of Carryover |
当初、4月から研究をスタートする計画を立てていたが、研究費の交付決定が6月下旬であったことから、研究開始期を7月に繰り下げたために、初年度は当初、予定していた使用額より実際の使用額が下回る結果となった。平成31年度は、計画通りに研究を進めることで、研究資金の支出についても計画的に実施していくこととする。
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