2019 Fiscal Year Research-status Report
広域・長期観測データによる採餌環境動態からのツキノワグマの生息・出没機構の解明
Project/Area Number |
18K05730
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
藤木 大介 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30435896)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ツキノワグマ / 人里への出没 / 堅果の豊凶 / ブナ / コナラ / ミズナラ / 同調性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2004年に全国各地でツキノワグマ(以下、クマ)の大量出没が生じて以来、秋季のクマの出没が人との軋轢を生んでいる。クマの出没は激しい年変動を伴うことから、事前に出没動向を予測し、人身被害等の予防対策を講じることが重要である。そこで当該年度においてクマの出没を予測するための以下の研究を実施した。 市町単位でのツキノワグマの出没予測技術を確立することを目的に、兵庫県域スケールで14年間にわたって収集された3種(ブナ、ミズナラ、コナラ)のブナ科堅果の豊凶とクマの出没情報数のモニタリング・データを用いて、市町単位でのクマの出没数を説明する一般化線形混合モデル(GLMM)を構築した。その結果、各市町におけるクマの出没には、市町内の堅果の豊凶のみならず、その周辺地域の堅果の豊凶も影響しており、両者の影響を適切に評価することによって精度の高い予測ができることが示唆された。また、単一の樹種では有効な精度で予測をすることは困難であり、複数樹種の豊凶を考慮することによって精度の高い予測が可能になることが示された。最も予測の精度が高かったモデルを対象に、市町間の予測精度を比較した結果、その予測精度には大きなバラツキがあった。市町間の予測精度の相違は、出没へのブナの豊凶指数の影響力の大きさと関係があることが示唆された。また、モデルにおけるブナの豊凶指数の影響力の大きさは、各市町におけるブナの分布量と関係していた。このようにブナの堅果の豊凶の影響力の強さが予測精度を左右する理由としては、ブナの堅果の豊凶の空間的な同調性が他の2種に比べて顕著に強いことが推測された。また、一つの県内でのみ豊凶観測を実施している場合は、隣接県の堅果の豊凶やクマの動向が考慮されないため、隣接県と接した市町における予測精度が低くなることが示唆された。これらの研究成果はUrsus誌に原著論文として投稿し、受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、以下の4つの研究課題を設定している: 1)ツキノワグマ(クマ)の生息密度の空間変異に影響を及ぼしてる景観要素を明らかにすること; 2)ブナ科樹木の資源量とその豊凶変動がクマの人里への出没に及ぼす影響を明らかにすること; 3)ニホンジカの影響による落葉広葉樹林の下層植生衰退がクマの生息密度分布やその増減に及ぼす影響を明らかにすること; 4)共存のための管理に向けたシナリオ分析。これまでに主に2)の課題に取り組み、研究初年度は、県域スケールでのクマの出没とブナ科堅果の豊凶の関係を統計モデルを用いて明らかにし、堅果の豊凶観測によって高い精度で出没を予測できるモデルを構築することができた。また、この成果は、国際的な学術誌に原著論文として、国内の専門誌に解説記事として掲載された。研究次年度は、市町レベルでのクマの出没とブナ科堅果の豊凶の関係性について分析を実施し、市町レベルでのクマの出没予測モデルを構築することができた。さらに、その研究成果は原著論文として、国際的な学術雑誌に投稿し受理された。以上のことから、2)の課題については、当初の計画以上の成果を挙げることができたものと判断する。一方で、2)以外の課題については研究の進展が遅れていることから、研究三年次において本格的に着手することとする。
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Strategy for Future Research Activity |
クマの人里への出没の変動に関しては、ブナ科堅果の影響による秋季の出没変動が着目されることが多く、春から夏の変動についてはこれまでほとんど着目されていない。しかし、分析を進める中で、兵庫県では近年、秋季よりも春季から夏季の出没数の増加が特に顕著になってきていることが示唆された。森林の林床に存在するチシマザサやチマキザサの筍はクマにとって初夏の重要な餌資源と考えられるが、兵庫県を含む多くの地域ではニホンジカの影響によりササ類の資源が広域に渡って減少してきている。このような植生変化は初夏における生息地内のクマの餌資源の減少を招いており、その結果としての初夏の人里への出没数の増加と関係している可能性がある。したがって、季節間で異なるクマの出没動向メカニズムの解明は、研究課題(3)(ニホンジカの影響による落葉広葉樹林の下層植生衰退がクマの生息密度分布やその増減に及ぼす影響を明らかにすること)とも関連していることが予想される。また、近年の春季から夏季の出没数の増加は、この時期におけるクマの有害捕獲数の増加につながっている。さらにこの結果として、秋季の出没数を予測するため統計モデルにはブナ科堅果の豊凶だけではなく、有害捕獲数の動向も考慮する必要性が出てきている。今後の研究の推進においては、このような観点から研究を展開していくことを計画している。
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Causes of Carryover |
年度末に日本森林学会大会と日本生態学会大会への参加を予定していたが、新型コロナの影響により大会が中止となったため、学会参加のために予定していた旅費の使用ができなかった。2020年度も新型コロナの影響で学会等の開催が不透明であることから、状況を見据えながら、繰り越し分については、新たに執筆中の投稿論文の英文校閲費用への使用等への充当を検討してきたい。
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