2018 Fiscal Year Research-status Report
針葉樹種子の胚乳を用いた胚致死遺伝子の解析法-他家受粉、自然受粉種子への拡張-
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18K05744
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
向井 讓 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80283349)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スギ / 胚致死遺伝子 / 胚乳 / 2親性近交弱勢 / 分離比の偏り / SSRマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
針葉樹の胚乳を用いた胚致死遺伝子の解析方法を開発することを目的として、以下の研究を実施した。 ①遺伝マーカーが多数開発され、胚乳も比較的大きく扱いやすいスギを解析対象種として選定した。岐阜県内の採種園においてスギ抵抗性品種4クローンを用いて、4×4ダイアレル交配を実施し、多数の球果を採取した。 ②採取した球果から取り出した種子から充実種子を選別し、吸水させ、個々の種子ごとに胚と胚乳とに分割し、それぞれからDNAを抽出した。 ③Moriguchi et al. (2009)などに記載されているSSRマーカー49座について、交配に用いたクローン間の多型の有無を調査し、最も多く多型が検出できた交配組み合わせ(清見7号×今須5号)を選出し、選出した交配組み合わせについて、多型を示すマーカー20座を用いて46個の胚および胚乳の遺伝分析を実施した。その結果、胚乳において有意(5%水準)に分離比が偏る遺伝子座を2座(CjG1226, CjG2056)検出した。また、この2座について胚における分離比の偏りを調査した結果、有意ではないが期待分離比からかなり偏った分離比を示すことを確認した。 ④以上の結果から、交配に用いた両親が共通に保有する胚致死遺伝子によって引き起こされると考えられる2親性近交弱勢を胚乳を用いて検出できることが明らかになった。また、分離比が偏った2座はスギの第11連鎖群に座乗し、第11連鎖群は無花粉スギなど他の交配家系でも偏った分離比を示すため、複数の家系に共通する胚致死遺伝子が検出できた可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要に記載したように、SSRマーカーを用いた胚及び胚乳における分離比の解析によって、胚乳で分離比の偏りを示す遺伝子座を2座検出できた。また、これら2座については統計的には有意ではなかったが胚においても分離比がかなり偏っていたため、検出された分離比の偏りは、母樹と花粉親とに共通する胚致死遺伝子との連鎖によることが示唆されたなど、研究内容としては当初計画通りに進捗している。一方、統計的に有意であった2座以外にも分離比が偏る遺伝子座があったが、遺伝解析に使用した種子の数が少ないため、統計的には有意にならなかった。研究期間の初年度であり、遺伝分析用の種子が得られたのが11月以降であったため、年度内に研究計画に記載した成果を得ることを最優先し、遺伝分析の実験規模を必要最小限にまで縮小して実施してきた。遺伝分析に使用できる種子は十分保有しているため、解析種子数を増やせば有意な分離比を示す遺伝子座をさらに多く検出できる可能性がある。 以上の理由から、研究計画は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
①2018年度の交配した種子の残り及び2019年度に新たに交配を実施した種子を用いて、遺伝分析を行う。特に2019年度には、清見7号および今須5号の自殖家系の解析を加える。 ②スギの連鎖地図にマッピングされているSSR座のうち、2018度の解析に用いていない約40座について多型性の確認をおこない、多型性が検出できれば遺伝分析に使用する。 ③MiGseqなど、次世代シークエンサーを用いる効率的な解析方法の導入を検討する。
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Causes of Carryover |
2018年度の研究では、多数の種子が得られたが、種子から胚、胚乳の分離、及び分離した胚、胚乳からのDNA抽出に多くの労力(研究補助砂金)を使ったため、種子の分析数を統計的に有意な偏りが検出できる最小数に縮小して実験を行った。また、他殖家系でも分離比の偏りを示す遺伝子座が検出できることを示すことを最優先し、SSRマーカーによる探索範囲を広くするためスギの連鎖地図上SSRマーカーマーカー間の地図距離を大きくしたため、分析する遺伝子座数が少なくなり、その結果、次年度繰越金が発生した。 今後の研究の推進方策に記載したように、分離比の偏りの検出感度を増すため、2019年度は2018年度の2倍の種子を解析する予定である。また、自殖家系の分析を行うなど分析対象家系数も増やす予定であるため、2019年度の遺伝分析には、2018年度以上の支出が必要であると思われる。このため、2018年度に生じた次年度使用額を加えて研究を実施する。
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Research Products
(1 results)