2018 Fiscal Year Research-status Report
サカキ輪紋葉枯病菌の分類学的な検討と病理学的特性の解明
Project/Area Number |
18K05746
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
木原 淳一 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (40294368)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陶山 大志 島根県中山間地域研究センター, 森林保護育成科, 専門研究員 (20502892)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | サカキ / 輪紋葉枯病 / 繁殖体 / 分類 / 病害防除 / 植物病原糸状菌 / 紫外線 |
Outline of Annual Research Achievements |
モッコク科サカキ属の常緑小高木であるサカキ(榊)は、葉物としてのニーズが高く、近年、中山間地域でのサカキ栽培が広がっている一方で、サカキ輪紋葉枯病による被害が拡大している。しかしながら、本病の原因となるサカキ輪紋葉枯病菌には、未だ種名がなく、その生活環や病理学的特性に不明な点が多いことが障壁となり、効率的な病害防除対策が確立していない。本研究では、「種分類」・「生活環」・「病理学的特性」に焦点をあてた基礎研究をとおして、サカキ輪紋葉枯病の実用的かつ効率的な防除への応用研究に展開していくことを目的とした。 はじめに、サカキ輪紋葉枯病菌の分類学的な位置付けを検討するため、rDNA遺伝子の塩基配列を用いた分子系統解析を行なった。その結果、サカキ輪紋葉枯病菌は、キンカクキン科に分類され、既知の近縁な糸状菌とは異なる系統群であったことから、新種である可能性が示唆された。 次に、サカキ輪紋葉枯病菌の生活環について、野外調査を行なった。4~5月頃に、落葉した罹病サカキ葉に黒色の菌核が形成されており、その菌核から有性生殖器官である子のう盤を形成していることを確認したことから、サカキ輪紋葉枯病菌は、キンカクキン科に属すると考えられた。また、サカキ輪紋葉枯病菌を高感度で特異的に検出するため、LAMP法を用いた遺伝子検出法を確立した。 サカキ輪紋葉枯病菌の病理学的特性のひとつとして、病害伝搬に重要な繁殖体の形成に及ぼす光の影響を室内実験により調査した結果、紫外線照射によって繁殖体が形成されることが明らかとなった。また、サカキの切り葉に繁殖体を接種し、室内環境で病斑や繁殖体を形成させる方法について、予備的実験を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的に、それぞれの項目において、概ね順調に推移しているものの、再現性やデータ量、および、実験精度において十分ではない部分があるため、これらの充実を図る必要がある。 「種分類」については、個々の供試菌のrDNAシークエンスデータについて、やや不十分なものもあるため、さらにデータを確実なものにする必要がある。また、rDNA以外の遺伝子を用いた分子系統解析を行なう予定である。分子系統解析の結果から、新種である可能性が高いため、繁殖体の形態的特徴については、今後、顕微鏡観察を中心とした形態的特徴を重点的に調査する予定である。 「生活環」については、野外において、生殖器官である子のう盤を形成していることを確認したものの、形成時期が短く、形態的特徴の数値データが十分ではないため、今後、可能であれば、顕微鏡観察等により調査を行いたい。マイクロサテライトマーカーによるジェネット分析は2年目から検討を行なっていく予定である。 「病理学的特性」については、室内環境における病斑や繁殖体形成の方法の確立には至っておらず、さらに検討を要する。また、紫外線が繁殖体形成に重要であることが明らかとなったが、この繁殖体形成を抑制する方法について、今後、検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「種分類」については、不十分なrDNAシークエンスデータの解析を早期に完了させる。rDNA以外の遺伝子について予備的検討を行ない、rDNA以外の遺伝子を用いた分子系統解析を行なう。他の植物の輪紋葉枯病菌を供試菌として、俯瞰的な分子系統解析を行なう。繁殖体の形態的特徴については、他の論文を参考に、データを充実させる。 「生活環」については、生殖器官である子のう盤・子のう・子のう胞子の顕微鏡観察、および、数値データの蓄積を行なう。マイクロサテライトマーカーによるジェネット分析を開始するにあたり、まずは、マーカー遺伝子となる候補遺伝子を探索し、サカキ輪紋葉枯病菌の分離菌株間で多型が見られるかを調査する。これまでの研究で確立したLAMP法を用いた遺伝子検出法を用いて、罹病葉以外の枝に、サカキ輪紋葉枯病菌が存在するか否かについての調査を行なう。 「病理学的特性」については、室内環境における病斑や繁殖体形成の方法の確立するため、まずは、温度や光の影響について調査を行なう。また、サカキ輪紋葉枯病菌の病斑進展がなぜ早いのか、また、なぜ早期に落葉するのかについて、サカキ輪紋葉枯病菌が生産する何らかの物質が関与している可能性を想定し、今後、検討を行なっていく。
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Causes of Carryover |
翌年度の使用額が増加することが予想されたため、当該年度の支出を抑えた。人件費・謝金の執行がなかった。実験規模を拡大し、翌年度分の使用計画として、シークエンスをはじめとする物品費を多く執行する予定である。
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