2022 Fiscal Year Research-status Report
光・電子相関顕微鏡法による木材細胞壁多糖類の網羅的局在解析
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18K05760
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
粟野 達也 京都大学, 農学研究科, 助教 (40324660)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ポプラ / 木部繊維 / 放射柔細胞 / 免疫組織化学的プロファイリング / バーチャル免疫標識 / 敵対的生成ネットワーク / キシラン |
Outline of Annual Research Achievements |
広葉樹のポプラ材では道管要素に隣接する一部の木部繊維の二次壁最内部に特徴的な網目状の壁構造(以下、網状層)が見られる。網状層の成分はペクチン性多糖類である可能性が示唆されているが、詳細は不明である。また、網状層の機能や、網状層をもつ木部繊維と持たない木部繊維の細胞壁の組成についても明らかではない。 そこで、広葉樹材であるポプラについて、155種類の抗糖鎖モノクローナル抗体を用いた網羅的な免疫標識を行い、非セルロース性多糖類や糖タンパク質の局在の違いをもとに網状層を持つ木部繊維と持たない木部繊維の違いを免疫組織化学的観点から検討した。使用した155種類の一次抗体のうち、木部繊維に対する標識が確認できたものは56種類であった。これらの抗体はペクチン、キシログルカン、キシラン、マンナンに特異性をもつが、組織全体に標識が見られる抗体や、網状層をもつ木部繊維のみに標識が見られる抗体が存在した。また木部繊維に対する標識が確認できなかった抗体の中には、組織全体に標識が確認されなかったものや放射組織のみに標識があるもの等が見られた。 網状層を標識する抗体にはペクチン(ラムノガラクツロナンI)に対する抗体も含まれるが、多くはキシランに特異性を持ち、特にグルクロン酸側鎖を含む構造を認識する抗体が多かった。このことから、網状層はグルクロン酸側鎖に富むキシランを主成分とすると考えられる。 網状層をもつ木部繊維と持たない木部繊維では二次壁に対する一部の抗キシラン抗体の反応性が異なり、二次壁を構成するヘミセルロースの組成や構造が異なることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
免疫金標識・透過電子顕微鏡法で広葉樹材の木部繊維における非セルロース性多糖類および糖タンパク質の免疫局在を網羅的に観察した。その結果、木部繊維には特有の網目状の細胞壁層(以下、網状層)を持つものと持たないものが存在するが、これらの木部繊維では二次壁において抗非セルロース性多糖類抗体による免疫標識パターンが異なっていた。このことは、細胞形態ではなく非セルロース性多糖類の分布様式により細胞の区分ができることを示しており、当初の期待通り免疫標識法による細胞の区別ができることを示した。 当初計画では、通常の超薄切片法による透過電子顕微鏡観察では木材細胞壁に皺が観察され観察に支障をきたすこと、グリッドの使用により視野が制限されること、の2点を回避するため、スライドガラスを96穴プレートに保持する器具を作製し、多数の切片に対して多種の抗体を同時に反応させ高分解能走査電子顕微鏡で観察する予定であったが、器具の製作がうまく進まず断念した。そこで、これらの問題を回避するため、単孔グリッドの利用により広視野を確保し、切片の加温によりフォルムバール支持膜使用時の皺の形成を防止することを試みた。グリッド直径よりも少し大きい穴を多数あけたアルミ板(支持膜保持具)にフォルムバール支持膜を張り、ホットプレート上で加温保持した。ダイヤモンドナイフの水に浮かぶ超薄切片を単孔グリッドで回収し、ホットプレート上の支持膜保持具の穴部分に単孔グリッドを載せ、そのまま乾燥させた。これにより、皺がなく広視野での透過電子顕微鏡観察が可能となった。この方法により、蛍光色素・ナノゴールド標識二次抗体を用いて同一切片の光・電子相関顕微鏡法を実現できる。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに設計した支持膜保持具を用いて、蛍光色素・ナノゴールド標識二次抗体を用いて同一超薄切片の光・電子相関顕微鏡法を実施し、放射柔細胞および木部繊維での非セルロース性多糖類の免疫局在について電子顕微鏡レベルの空間分解能まで高める。 連続切片を用いて複数種の抗体標識を比較する方法では切片間で組織構造が異なるため、厳密な比較が難しい。この問題を解決するため、敵対的生成ディープラーニングによるバーチャル多重免疫標識技術を開発した。複数の抗体について、同一の細胞壁染色画像からそれぞれの免疫標識モデル画像を生成し、相互に比較することが可能となった。本年度は免疫標識モデル画像がどの程度の精度で実際の免疫標識を再現できているのかを客観的な指標で評価できるようにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症により実験停止期間が生じ、十分な回数実験を行うことができなかった。またそれに伴い、使用予定であった試薬の購入を見合わせたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、顕微鏡試料作製試薬に充てる。
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Research Products
(1 results)