2020 Fiscal Year Research-status Report
Inprovement on the shortened annual cycle system for xylem formation
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18K05761
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
馬場 啓一 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (20238223)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 木部形成 / 植物の成長 / 環境応答 / 人工気象器 / 周年性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人工環境下においてポプラの周年性を短縮させつつ、より自然に近い木部を形成させる育成条件を見出すことを主な目的としている。すでに実施者らの開発していた周年短縮樹木育成システムは、温度と日長を3段階で制御することにより、成長・休眠を含む周年期間を4から5ヶ月に短縮して繰り返すことができる。昨年度までに、この系のステージ2(秋に相当)の条件検討を行い、温度を徐々に下げることで道管径の推移を野外環境と同じく徐々に小さくさせられることを明らかにした。また師部においては、休眠を経るごとに師部繊維の発達が顕著となることを明らかにした。その後、各ステージで形成される木部をナイフマーク法によって特定してきた。 本年度は、申請書に記載のキシログルカナーゼ組換えポプラを用いた周年短縮育成をおこなったが、野生株と比較して顕著な外見上の違いは見られなかった。そこで、通常の野生株を用いた周年短縮培養において経時的に幹試料をサンプリングしてRNA-seq解析を行い、細胞壁関連遺伝子の発現変動について調べる方向に変更した。各採取日で発現している遺伝子の相関を多次元尺度構成法(MDS)で二次元空間に変換プロットした図において、概ね採取日順に並び、異常な発現を示す試料は見受けられなかった。発現変動を示す遺伝子群を、その変動パターンによって7つのクラスターに分けたのち、遺伝子オントロジー解析を行った結果、木部や師部の分化に関与する遺伝子群はステージ1で発現量がピークになるクラスターに多く、細胞壁形成関連の遺伝子群はステージ2でピークになるクラスターに多かった。これらの結果は、前年までに得られた各ステージで形成される木材の組織学的観察結果との相関を論じつつ、日本植物学会第84回大会および第71回日本木材学会大会において口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請当初の主たる研究目的は、周年短縮系で育成された樹木の年輪内における道管径の変化を、野外での育成と同様に徐々に小さくさせるための条件検討であったが、その点については初年度に明らかにすることできた。その後、発展的な研究展開として、周年短縮系における師部組織の変化と、3つのステージそれぞれで形成される木部組織の特定を試み、いずれも明瞭な結果が得られた。即ち、師部においては、個々の師部繊維の発達についても師部繊維の集合体の発達についても、休眠を経ることによって促進されることが明らかとなった。これは、人工環境を用いて同じ期間、休眠させない株と休眠・休眠打破を繰り返させる株を実験室内で育成し、形成された組織構造を比較することで初めて明らかにできた結果である。また、3つのステージそれぞれで形成される木部については、ナイフマーク法がうまく機能し、木部組織内でそれぞれのステージで形成された構造を具体的に示すことが可能となった。申請書に記載した糖鎖分解酵素の遺伝子組換え体を用いた周年短縮栽培では、フェノタイプにおける差異を野生株との比較で見いだせなかったが、他方、周年短縮栽培における経時的RNA-seqによる細胞壁関連遺伝子の発現変動について明らかにすることができた。以上のことから、1)師部繊維の発達過程2)各ステージで形成される木部組織の特定3)細胞壁関連遺伝子の発現変動パターン、といった3点を明らかにしたことは、申請段階において盛り込まれていなかった成果であり、組換え体実験で結果を得られなかったことを差し引いても、想定外に多くの成果が得られたものと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
実験部分に関しては申請書段階の部分だけでなく追加した部分に関しても完了しており、今年度、新たに推進すべきは、すでに得られた実験結果を用いて解析結果を出す、即ち顕微鏡画像データから各細胞の形状を数値化すること、RNA-seqデータから細胞壁関連以外の周年性に関する遺伝子について発現変動を明らかにすることとなる。また、研究結果の発表について、学会における口頭発表は随時おこなってきたが、論文化が遅れているので、論文発表を強く推進する予定である。
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Causes of Carryover |
主として新型コロナウィルス感染拡大防止のため、参加・発表を予定していた学会大会が中止となり、その旅費に充てていた分の支出が必要なくなったため、次年度使用額が生じた。また、昨年度は組織構造観察を行う必要がなかった分の物品費も次年度使用額となった。今年度は主としてこれまでに得られた実験結果のさらなる解析を行い、新しい視点を加えて学会発表する予定で、その旅費に使用するとともに、論文作成を強く推進し、その際の英文校閲、投稿料およびオープンアクセス費用に主として使用する計画である。
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Research Products
(2 results)