2019 Fiscal Year Research-status Report
ピッカリングエマルションを利用したナノセルロースのヤヌス型表面分子設計
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18K05767
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
横田 慎吾 九州大学, 農学研究院, 助教 (30600374)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノセルロース / 表面・界面 / エマルション / 両親媒性 / 化学改質 |
Outline of Annual Research Achievements |
水中カウンターコリジョン(ACC)法により調製されるナノセルロース(ACC-ナノセルロース)の乳化特性についての基礎的知見を得た。さらに、安定化されたピッカリングエマルションにおける水/油界面を反応場とした化学改質によって、ACC-ナノセルロースの局所的表面分子設計を行った。 ACC-ナノセルロースの乳化安定性:前年度からの継続的な検討により、油相/水相界面に対してACC-ナノセルロースが極めて密に吸着し、その高い安定性に寄与していることを明らかとした。さらに、乳化安定性に対する油相の物理化学的性質を詳細に検討し、油相の比誘電率が乳化安定のキーファクターとなる新たな知見を示した(Carbohydrate Polymers, 226, 2019, 115293に掲載)。 ピッカリングエマルションを反応場とした局所的化学改質:両親媒性のACC-ナノセルロースが水/油界面を密に覆ったピッカリングエマルションを形成する性質を利用し、水/油界面に吸着したACC-ナノセルロースに対して油相側のみで表面化学改質(アセチル化)を施した。均一分散系での表面アセチル化と比較したところ、アセチル基の局在によるとみられるACC-ナノセルロースの「ヤヌス性」の向上が示された(投稿準備中)。この系は他の反応にも適用可能であるため、ナノセルロース表面の局所的な官能基の導入によって、その親水・疎水性の二面性を介して自己組織化形態を制御した新規な材料設計が可能になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目には、ACC-ナノセルロースの両親媒性に起因する良好なエマルション形成能を示したが、本年度は、油相/水相界面に対してACC-ナノセルロースが極めて高い密度で吸着することを可視化によって明らかとした。さらに、物理化学的性質(比誘電率、密度、粘度)の異なる油相を用いて乳化安定性を詳細に検討したところ、油相の比誘電率が2.0-2.1程度のときに乳化安定性が高いことが示された。 次に、ピッカリングエマルションの界面を反応場として用いることにより、水/油の半水系におけるACC-ナノセルロースのアセチル化反応を行った。赤外分光法によってアセチル化をモニターしたところ、エマルションの油滴径とアセチル基の導入量に相関がみられ、界面反応の進行が示された。エマルションを用いない均一分散系でも同様にアセチル化反応を施し、2種類の表面改質ナノセルロースを得た。同程度のアセチル化導入量にもかかわらず、両者の水分散状態における沈降挙動に違いがみられ、ピッカリングエマルション界面でアセチル化を行ったACC-ナノセルロースは、水中で自己組織化とみられる会合を起こしていることが示唆された。さらに、スライドガラス基板上でキャストした2種類の表面アセチル化ACC-ナノセルロースフィルムに対する水の接触角を評価した。その結果、エマルション系で局所的に表面アセチル化を行った方がより高い疎水性を示す薄膜が調製された。表面ラフネスには優位な差がみられなかったことから、局所的な表面アセチル化反応によりヤヌス性が向上したため、疎水的な空気に接している分散液表面ではナノセルロースの疎水的なアセチル基が局在した面を向けるような集合形態が誘導され、結果としてフィルム表面の疎水性がより顕著になったことが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
乳化特性に関して、今後の材料設計の指針として重要な因子となるACC-ナノセルロース(シングルナノファイバー)の表面自由エネルギー評価を試みる。また、乳化に必要なエネルギーの定量的な評価、エマルションの安定性(計時変化、刺激応答性)について継続的に検討する。さらに、表面改質プロセスの精査より、疎水性の高いナノセルロースの設計を試みる。具体的には、ACC-ナノセルロースを用いてW/Oエマルションやダブルエマルションの形成が可能かどうかについて検討する。 一方、ACC-ナノセルロースのヤヌス性を活かした表面改質法であるピッカリングエマルション界面での局所的表面改質について、得られた改質ナノファイバーの自己組織化特性を詳細に検討し、高次構造形成の制御や無機物、汎用樹脂とのナノ複合化を検討する。
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Causes of Carryover |
参加予定であった学会(第70回日本木材学会大会、鳥取市)が新型コロナウイルス感染拡大防止のため開催が中止となり、当該旅費の支出が不要となった。また、支出を予定していた論文執筆経費(掲載済み1報、投稿中1報)について、所属機関および部局の支援制度を活用することができたため、不要となった。これらの結果発生した未使用助成金は、次年度の消耗品等物品費および有料分析機器使用料に使用する計画である。それにより、研究のさらなる進展が期待できる。
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