2019 Fiscal Year Research-status Report
Effective strategy to avoid establishment of invaded Chinese mitten crab population
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18K05780
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
横田 賢史 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00313388)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | チュウゴクモクズガニ / 種分布モデル / 侵入・定着リスク / 標識放流 / 自切実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
公開されている世界各地のチュウゴクモクズガニの分布と環境情報を種分布モデル(SDM:species distribution model) で解析し,原産域と欧米の拡散した地域の特徴を明らかにし,日本国内へのチュウゴクモクズガニの定着リスクを評価した.原産の中国の分布域および侵入・定着した欧米の分布域データと1979年から2013年までの19の環境データとの相関性をSDMで解析した結果,原産域と侵入定着域では環境に差異がみられ侵入定着地域のニッチシフトが示唆された.さらにSDMを日本国内に適用しチュウゴクモクズガニの分布域に環境が類似する地域を推定した.類似した環境をもつ地域には,幼生浮遊から河川に着底する段階においてチュウゴクモクズガニに好適なエリアは含まれなかった.モクズガニ類は着底後に別の好適な河川に移動するなどの行動は確認されていないことから,日本国内での持続的な個体群形成のリスクは小さいことが示唆された. 国内河川でのチュウゴクモクズガニ個体群の持続性評価のための数理モデルに適用するパラメータ値を得る目的で野外調査と室内実験を行った.国内侵入後に競合が想定される日本原産の同属のモクズガニの成体を対象にICタグで標識し,野外への放流を実施した.脱落の可能性が低い部位を特定しICタグを装着して,野外の河川にカニを放流した.現時点で放流河川でタグ付きのカニの再捕獲には至っていないが,定期的に採集を継続し捕獲に努めていく. 同じくモクズガニの脱皮成長に与える自切の影響にについての室内実験を行った.野外で採集した小型のモクズガニを実験室内で脱皮まで個別飼育した.脱皮直後のカニの鋏脚を切除して,切除無しのカニとの体成長率を比較した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チュウゴクモクズガニの日本定着のリスクを評価するために本研究を進めている.研究当初には計画していなかったが,インターネット上にチュウゴクモクズガニの世界分布および環境データが公開されており,世界各地の環境モニタリング情報を用いたSDMがリスク評価に適当であると判断し,先行して情報を整理して解析を行った.また,この内容を学術雑誌に公表した.他の調査で報告された原産域の幼生着底環境に近いと予想されていた国内の地域は,成長後の分布域の環境には隣接していないことが明らかになった.この解析によって,本種の発生,成長から繁殖につながる一連の好適な生息場が日本では存在しないことから定着リスクは従来の想定よりも低いことが評価できた. 本研究課題の当初より進めている項目の1つは,実験・観測データによるモデルのパラメータ値の推定である.ICタグを装着したモクズガニの放流を実験対象河川で実施した.各月に同河川で捕獲を実施しているが,タグ付き個体の捕獲には至っていない.さらに放流する数を増加させるとともに,捕獲方法についての改良を行っている.種間関係を取り入れた個体群動態モデルに設定するパラメータ値を決めるための実験を行っている.モクズガニの室内実験において自切の脱皮成長率に与える効果を観測した.個体群動態モデルには2種間の競合について,幼生期,成長期,繁殖期の各段階で観測結果に基づいた関係式を取入れる.成長期は,既往知見やこれまでの実験結果より妥当な関係を推定できる状況にある.繁殖期では既往の実験結果を比較し両種の差異を取り入れ,その効果を評価を進めている.一方で,幼生期の影響は観測が難しいため,可能性のある状況を設定し解析を始めている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は当初は生活史特性に基づく個体群動態モデルを中心にチュウゴクモクズガニと在来種のモクズガニの競合に焦点を当ててモデル作成を進めてきた.また,信頼性を向上したリスク定量化のためにパラメータ推定に不足する調査・観測を進めてきた.これと並行して本年度は世界各地の分布および環境データを用いた種分布モデルの検討を進め,統計学およびデータサイエンスの手法を応用した解析を実施した.各々が独立したアプローチであるが,侵入・定着リスクの評価では一致し,当初計画だけでなく種分布モデルの方法も推進してリスク評価の精度向上を期待している.そのために,昨年SDMで用いた公表されている分布データ,環境データのみでなく,より信頼性を向上させるために必要な観測項目を精査し,データの入手,観測および換算方法などの開発を進めていく予定である. チュウゴクモクズガニは欧米での被害が大きかったため厳格な規制が実施されており,この経緯から日本においても外来生物法により活カニ流通規制があることから国内での個体群形成のリスクは低い.一方で,活カニ流通は減少したものの輸送中の偶発的な逃げ出しや緩みなどは今後想定されるため,早期に発見することを目的としたモニタリング手法を作成し,侵入防止のために定期的かつ有効な評価法を確立させる必要である.また,本種以外にも甲殻類ではヨーロッパから侵入定着したミドリガニやザリガニ類など在来の生態系に影響する特定外来生物の分布拡大が危惧される.そのため,より汎用的なモニタリング手法について開発と評価を進める必要がある.今後は特に,近年広く応用が進められている環境DNAを取り入れたモニタリング手法を推進していく.
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Causes of Carryover |
当該年度では,カニの生態調査・実験において胃内容物分析を詳細に行うことになったために薬品等の物品費が必要となった. カニの標識放流・飼育実験および担当学生への技術指導のため,博士研究員を時間雇用する予定であったが,該当者が学内特別研究員として別事業で採用されたため,本研究での業務を翌年度に行うこととした.翌年度に当初計画通りの調査・実験を担当する博士研究員を雇用し,加えて論文作成等を担当する予定である.
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