2019 Fiscal Year Research-status Report
Systematic assessment of worldwide marine stock enhancement and sea ranching programs
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18K05781
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
北田 修一 東京海洋大学, 学術研究院, 名誉教授 (10262338)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱崎 活幸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90377078)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 栽培漁業 / 放流効果 / 遺伝的影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度出版した世界の放流効果の続編として,100年以上にわたる日本の栽培漁業の効果と野生集団への影響を総括した。文献調査及び公開データのメタ解析によって,代表的な21の事例における回収率の事後平均±標準偏差を8.3±4.7%と推定した。人件費,施設整備費,モニタリングコストを除いた経済効率は2.8±6.1で,多くの事例では経済効果は1-2の範囲に分布した。全国規模でみた放流種苗の漁獲に占める割合は,ホタテガイ76±20%,アワビ28±10%,ガザミ20±5%,13±5%クルマエビ,ヒラメ11±4%,マダイ7±2%と推定され,資源量は種苗放流とは関係なく変動していた。 野生産の幼生を育成放流するホタテガイでは,放流と放流後の禁漁によって漁獲量が顕著に増加し,経済効率も18±5と高い。継代飼育親魚を使用する鹿児島湾のマダイでは,放流開始後15年ほどは順調に放流魚の漁獲量が増加したが,その後は種苗の生残率が低下し,放流効果は消失した。回帰親魚を使用するシロザケでも,1970年代半ばから劇的な漁獲量増加を達成したが,1996年以降は一貫して減少に転じ,増加前の水準に低下した。この間の経済効率は19±7と最大であった。集団間の遺伝子流動は大きく,日本のシロザケのほとんどがふ化場魚かその子孫と考えられた。近年の回帰数低下は,人工ふ化の遺伝的影響に起因するとの仮説を提唱した。 継代飼育は人工種苗の野外での生残率を低下させることがマダイの事例で確かめられた。長期的には野生の遺伝子を置き換え,放流個体の割合が非常に大きい場合には,放流対象集団中の適応度を低下させる可能性がある。保全目的の場合等,短期間の種苗放流は効果的かもしれないが,長期間の大規模放流は集団の持続に悪影響を与える可能性が高い。マダイの事例は,種苗放流よりも稚仔の育成場回復と漁獲圧低減の資源増殖効果が高いことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①上で述べた日本の栽培漁業の効果と野生集団への影響の総括結果を論文にとりまとめ,国際誌 Reviews in Aquaculture(IF 7.19)ISI Journal Citation Reports; Ranking: 2018:1/52 (Fisheries)に投稿し,2020年2月にonline出版された。 ②放流効果の推定法を概観し,1段クラスターサンプリングの場合の推定法を整理した。特に比推定では,補助変量(既知)を必要とするが,漁協の水揚げ統計が利用できれば,抽出単位の総数が不明でも適用できる。その有用性にもかかわらず,比推定を用いた水揚げ量の推定例は多くない。そこで,混合比の比推定量に基づき,放流魚等興味の対象の総数を推定する場合の推定量と誤差について整理した。関連する総数の不偏推定量についても,併せてまとめた。シミュレーションによって混合比推定量の性質を調べるとともにサワラ稚仔の公表データに適用し,水揚げの推定方法と精度について考察した。2020年1月に日本水産学会誌に受理され,7月に出版の予定である。 ③ これまでに開発した種苗放流の評価と集団遺伝に関する方法論を「水産増殖のサンプリングと集団遺伝」としてとりまとめた。「朝倉農学大系 生産環境統計学 (岸野洋久編)」の一章として出版予定であり、現在製作工程にある。 ④ 近年の日本のシロザケの回帰数低下の原因を解明することを目的に,北太平洋全体にわたる遺伝子データの解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研費プロジェクトの最終年度となる2020年度は,ゲノムの適応進化の枠組みで,人工ふ化の遺伝的影響と温暖化との関連に焦点をあて,近年の日本のシロザケの回帰数低下の原因を解明する。現在,北太平洋全体にわたる遺伝子データの解析を進めている。2020年夏には国際誌に投稿し,年度内の出版を目指している。 研究成果の社会への発信にも重点を置く。具体的には,北海道定置漁業協会40周年記念フォーラム「急減した秋サケ資源の再生は可能か?-環境変動に順応可能なサケの種苗性(仮題)」において,「種苗放流の効果と野生集団への影響」の基調講演が予定されている。 また、共同研究者の濱崎活幸氏とともに、淡水産小エビ類の環境適応を飼育実験とフィールド調査で研究してきた。ここで得られた結果は、温暖化とシロザケ生残率の低下の関係を考察するうえで非常に有用である。いくつかの課題について成果がまとまりつつあり、逐次論文化の見込みである。
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Causes of Carryover |
論文1編の掲載料を予定して鋭意努力したが、年度内に受理にならなかったため、次年度に活用することとした。当該論文は現在改訂を進めており、夏には投稿予定である。
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Remarks |
本人の履歴、研究成果などの情報を公開している。
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Research Products
(7 results)