2019 Fiscal Year Research-status Report
浮遊性海産珪藻に浮上性を与える細胞因子の究明と環境ストレスによるその影響評価
Project/Area Number |
18K05787
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
島崎 洋平 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40363329)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 浮遊性珪藻 / 沈降速度 / 基礎生産 / 水温上昇 / 汚染物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物プランクトンの沈降速度は海洋の基礎生産量を制限する重要な要因であるが、環境汚染物質が及ぼす沈降速度への影響を調べた報告は殆どない。本研究では、海洋の主要な基礎生産者である浮遊性珪藻類の浮上や沈降に影響を及ぼす細胞内成分を解明すると同時に、沈降速度に及ぼす水温上昇と船底防汚剤等環境汚染物質の影響について評価する。2019年度は船底防汚剤トリブチルスズ(TBT)が海産浮遊性珪藻Thalassiosira pseudonana の沈降速度と生理的パラメータに及ぼす影響を調べた。T. pseudonana細胞浮遊液に増殖速度に及ぼす10%阻害濃度(EC10: 1.0 ug/L)および50%阻害濃度(EC50: 1.7 ug/L)のTBTを72時間暴露(N=3)して24時間毎に沈降速度を調べた結果、EC50区における沈降速度(0.04-0.006 m/day)が対照区(0.13-0.08 m/day)に比べて全ての測定時間で有意に低下した。EC10(0.08-0.05 m/day)においても48時間目で対照区に比べて有意に低下していた。一方、EC50区でタンパク質含量が有意に低下しており、海水(比重約1.02 g/cm3)よりも比重が大きいタンパク質(比重約1.33 g/cm3)含量の低下が細胞比重、沈降速度の低下に関与している可能性が考えられた。我々の既報(Khanam et al., Chemosphere 175, p200-209, 2017)において、TBTとは作用機構の異なる光化学系IIの阻害剤diuronも珪藻の沈降速度を低下させた。沈降速度の低下により珪藻類の光阻害リスクを増加させる可能性があり、またTBTおよびdiuron自体が光合成活性(Fv/Fm比、PIABS)を低下させるため、沈降速度の低下および汚染物質自体の活性による光阻害が懸念された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TBTの沈降速度への影響については3年目の予定であったが、前倒しで2年目までで終了した。当初の計画における増殖段階、および水温上昇(汚染物質との複合)の影響については3年目に実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題以前の成果も含めて、作用機構の異なる2種の船底防汚剤が海産浮遊性珪藻類(小型珪藻2種)の沈降速度を低下させることを示し、その低下にはタンパク質、中性脂質等細胞内主要成分の変動による細胞比重の影響が推測された。最終年度は海洋汚染物質として世界的な汚染が確認されている化石燃料の副生成物polycyclic aromatic hydrocarbon(PAH)に着目して影響を調べる。さらに水温上昇と汚染物質の複合影響についても検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画予定の増殖段階における沈降速度の変動ではなく、船底防汚剤(TBT)による影響を調べた。予定を変更して実験を実施したため、必要な消耗品が、当初より少なくなり若干の余剰金が生じたため。余剰分は次年度計画の実験に供する。
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Research Products
(2 results)