2019 Fiscal Year Research-status Report
Transposition mechanisms of multiple drug resistance genes from plasmids to chromosome among bacteria in the aquaculture environment
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18K05790
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
野中 里佐 獨協医科大学, 医学部, 講師 (70363265)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 遺伝子伝達 / 多剤耐性プラスミド / トランスポゾン / 薬剤耐性菌 / ビブリオ属 / βラクタマーゼ / 養殖場 / チロシンリコンビナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに、Vibrio alfacsensis04Ya249株の伝達性多剤耐性プラスミドpSEA2(306,247 bp)は7つの薬剤耐性遺伝子をコードすること、およびβラクタム薬耐性遺伝子をコードする約7 kbのトランスポゾン(TnX)を有していることを明らかにした。2019年度はプラスミド上のトランスポゾンTnXがpSEA2全長が染色体へ取り込まれる際に果たす役割を明らかにした。pSEA2全長の取り込みは、まずTnX単独が宿主の相同性組み換えとは無関係に高頻度で組み込まれ、その後、組み込まれたTnXとプラスミド上のTnXの相同性組み換えにより達成されていることが示唆された。なおこの結果は、既報により提唱したトランスポゾンTn6283が介する多剤耐性プラスミドの染色体への取り込みモデルを支持するものであり、Tn6283やこれに類するTnXを含むトランスポゾン群による多剤耐性遺伝子の染色体への組み込みは広くVibrio属細菌に利用され、耐性遺伝子の拡大に寄与していることが示唆された。 次に、TnXがDNA分子から切り出される分子機構について、pSEA2のホストである 04Ya249およびTnXを1コピー染色体上に有する接合体(大腸菌)が保有する各種分子種および遺伝子の定量結果、およびpSEA2および04Ya249株の染色体上のTnXの挿入部位の配列解析から、TnXはまず最初にコピーが作成され、続いてこれがDNA分子上から切り出された後、環状態を形成して転移するcopy-out-paste型であることが示唆された。また、複数の接合体の解析から、接合体には1-3コピーの異なる数のβラクタマーゼ遺伝子が伝達しており、コピー数が多いほどアンピシリンに対するMIC値が高かったことから環境中における細菌間の遺伝子伝達によって高度耐性菌が生じている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、養殖環境由来多剤耐性菌で見られる多剤耐性プラスミドの受容菌染色体上への組み込みをアシストするトランスポゾンの多様性と環境細菌における分布を明らかにすることを目的としている。前年度までに、ビブリオ属細菌から大腸菌へ伝達されたプラスミドpSEA2の全塩基配列から本プラスミドが約7.0 kbのトランスポゾン(TnX)を有することを明らかにした。2019年度は以下に示す3つの点について重要な知見を得ることができたため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。 ①pSEA2上にコードされるTnXはpSEA2全長が染色体へ取り込まれる際にいったん自身のコピーを作成してまずレシピエント染色体上に転移することにより、プラスミド全長の取り込みをアシストする働きをしているかという役割に加え、TnXがいかにしてDNA分子から切り出され、転移するかという分子レベルでの挙動についての知見を得るとともに、我々が提唱するcopy-out-pasteモデルをさらに支持するデーターを得ることができた。 ②TnXはすでに我々が報告したトランスポゾンTn6283との配列類似性を有しており、また先述したプラスミドの染色体への導入という機能面でも共通している。つまり、共通した振る舞いをするトランスポゾンのファミリーがVibrio属細菌に広く分布していることを示唆するデーターを得ることができた。 ③このようなトランスポゾンを介した伝達性プラスミドの染色体への組み込みを通じて、薬剤耐性遺伝子が増幅していること明らかになった。これにより、βラクタマーゼ遺伝子のコピー数が増えた株は高濃度のアンピシリンに対して高い耐性を示すことから、トランスポゾンを利用した多剤耐性プラスミドの伝達や染色体への組み込みは環境中で高度耐性菌が作られる原因の一端となっていることを示唆するデーターを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、①各種抗菌薬およびSOS応答誘導剤として知られるMitomycin等の存在下での接合伝達を行い、これら薬剤により、多剤耐性プラスミドの伝達およびレシピエント染色体上への組み込み頻度が上昇するかについて検証する。 ②本研究でドナーとして用いている多剤耐性ビブリオ属細菌と同じ環境から分離された多剤耐性菌およびこれらをドナーとして得られた大腸菌接合体について、TnXの指標となるintA遺伝子を保有する細菌を特定するとともにTnXの環状態およびTnX全長の検出を行い、本機構を利用している細菌種の多様性を明らかにする。 ③これまでの実験により得られた、異なる数のβラクタマーゼ耐性遺伝子をもつ接合体を用い、βラクタマーゼ活性を明らかにし、それぞれの株が示すMIC値がβラクタム薬の分解によるものであることを証明する。 ④年度初めから論文投稿の準備を行い、年内の投稿および年度内の受理を目指す。 【研究を遂行する上での課題】研究代表者は2019年度末に所属機関を異動し2020年度より新しい所属機関で研究を行うことになったが、異動先の研究設備はそれほど充実したものではなく、本研究のために必須の機器がいくつか不足している状況にある。したがって、計画している研究計画を遂行するために、必要があれば元の所属機関や他大学へ出張して実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度後半に所属機関異動が決定し、新所属先には本研究費で購入予定であった機器が既にあること、一方これまでの所属機関で使用してきた本実験必須の機器が異動先の研究機関にないことがわかったため、2020年度に異動先で必要な機器を購入するために2019年度後半の設備備品の購入を控えた。そのため次年度使用額が生じた。2020年度は当該研究の遂行に必要な設備備品を購入予定であるが、上記の理由により購入する設備備品は当初申請していた設備備品とは異なる物品となる予定である。
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