2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the significance of cyanobacterial circudian clook in aquatic ecosystems
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18K05797
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
吉山 洋子 龍谷大学, 農学部, 実験助手 (80519968)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉山 浩平 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (90402750)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 湖沼生態系 / 藻類 / 生物時計 / 理論モデル / 鉛直移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
原核生物シアノバクテリアには概日リズム(概日時計)を持つ種が存在することが知られている.これまではその仕組みの解明に主眼が置かれた実験研究が主として行われてきた.一方,野外生態系における概日時計研究はまだ遅れている.現在の研究の中心は海洋で,海洋性シアノバクテリアの多くが概日リズムを持つことが明らかになっているが,淡水域では殆ど調べられていない.また,概日時計の適応的意義は未だ明らかになっていない.そこで本研究では,淡水域を中心に「シアノバクテリア生物時計の,水域生態系における適応的意義を野外調査及び室内実験において検証する」ことを目的とした.野外においても「内生リズムと環境周期の一致が生存を有利にさせる」ことが予測される.そこで,野外の藻類で,昼夜リズムと生理活性(増殖速度と光合成活性)の関係を明らかにする.複数の明暗周期下で培養を行ない,各株の内生リズムと昼夜周期との比較を行う.これまで琵琶湖のシアノバクテリアの単離培養を試みたが,シアノバクテリアの継代的な培養は成功していない.今後はpHなどの培養条件を見直し,培養実験を継続する.加えて,淡水藻類群集全体での昼夜周期に対する応答を明らかにすることを試みる. 2021年度から開始したシアノバクテリア概日時計の適応的意義に関する理論研究では,基本となるシアノバクテリア鉛直移動モデルの解析が終了した.2022年度はモデルパラメータに概日時計に対応する周期性を導入し,その適応的意義を検討する.概日時計による制御が行われない場合はコロニーサイズに応じて,日周鉛直移動や隔日鉛直移動,不規則周期鉛直移動(カオス)といった鉛直移動パターンが得られている.概日時計を導入することで不規則なパターンが抑制され,光合成効率を向上させる効果が期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は主として理論研究を行い,ラン藻細胞コロニーの鉛直移動を表す数理モデルを解析した.明条件下において,ラン藻は光合成により細胞内に炭水化物を貯蔵する.炭水化物を含む液体の比重は水より大きいため,細胞内の炭水化物が増加すると細胞の比重が増加しラン藻は沈降する.暗条件下では,貯蔵した炭水化物は消費されて比重が減少しラン藻は浮上する.このようにラン藻は光環境の変動に応じて鉛直空間を上下する非線形振動子と捉えることができる.水中における鉛直移動速度は粒子の密度と大きさに依存するため,振動子の振幅と周期は,密度を変化させる光環境およびラン藻細胞コロニーのサイズに依存している.湖沼において,光は水や懸濁物による吸収により鉛直的に減少し,昼夜24時間周期で変動する.時空間変動を示す光環境下におけるラン藻細胞コロニーの鉛直移動を記述する数理モデルを解析した結果,24時間周期,48時間周期,カオス周期といった多様な鉛直振動パターンが存在することが明らかとなった.このカオス振動はコロニーサイズが小さい場合にも大きい場合にも生じうる.振動子の固有の振動(リミットサイクル)を解析することにより,振動子のモードと外力のモード(24時間周期)のずれが引き込み不全を引き起こしカオス振動が創発されることが示唆された.これまでの研究では,ラン藻が水表面に集積する現象(ブルーム)の不規則性は気象と関連づけられてきた.この結果は,ラン藻の生態に内在するメカニズム自身がブルーム発生の不規則性の要因である可能性を示唆する.
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Strategy for Future Research Activity |
藻類体内時計の適応的意義の実験的検証:淡水生態系藻類を用いて仮説検証を行う.具体的には,微量溶存酸素測定システムを用い,様々な明暗周期下で培養を行い,生理活性指標(増殖速度,光合成活性)を最大化する周期を調べる.各株の内生リズムと生息していた時期の昼夜周期を比較する.培養実験はOuyang et al. (1994)に従う.増殖速度測定は蛍光顕微鏡法より算出する.光合成活性測定は,明暗瓶法を改良して用いる.本実験結果より,藻類の内生リズムに対し,明暗周期の生理活性への影響を解析し,概日時計が生存競争に与える影響を考察する.本実験の結果は,reproductive fitnessは,各株の野外での昼夜周期と一致した明暗周期において,最大化されると予測される. シアノバクテリア鉛直移動モデルの解析結果から,コロニーサイズに応じて通常見られる日周鉛直移動以外にもカオス鉛直移動が生じることが明らかとなった.2022年度は最大光合成速度を制御するパラメータに概日リズムを導入する.このことにより,概日リズムを保持することにより,安定した日周鉛直移動が維持されるか否かを検証する.また,概日リズムが光合成効率の向上に寄与するかを合わせて検討する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症流行による調査船の利用停止や大学業務の増加等により,計画通りに実験が進められなかった.これにより2021年度に行うはずであった研究に関連する物品の購入・出張等ができなかったため,使用額に差が生じた.2022年度は,2021年度の研究計画分も含めて計画を遂行する.計画に応じて,消耗品購入,学会参加等に充ていく計画である.
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