2020 Fiscal Year Research-status Report
ヘテロカプサ赤潮はなぜ貝類のみをへい死させるか―不安定毒素の全容解明への挑戦-
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18K05809
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
山崎 康裕 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (40598471)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
紫加田 知幸 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(廿日市), 主任研究員 (40603048)
内山 郁夫 基礎生物学研究所, ゲノム情報研究室, 准教授 (90243089)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 赤潮 / ヘテロカプサ / 溶血活性 / トランスクリプトーム / 二枚貝へい死 / シオミズツボワムシ |
Outline of Annual Research Achievements |
渦鞭毛藻Heterocapsa circularisquama(以降,ヘテロカプサ)は,貝類に極めて強い毒性を発現する赤潮の原因種である。先行研究により,ヘテロカプサの毒素は膜タンパク質であると推定されたが,速やかに失活するため毒素の精製が困難である。そこで本研究では,毒性の異なるヘテロカプサ細胞の各種遺伝子発現量を比較して毒性発現に関わる遺伝子群を見出すとともに,毒素候補の一次配列から作製したポリクローナル抗体を用いた免疫学的研究による貝類へい死機構の解明を目的とした。 初年度は,ヘテロカプサ強毒株と弱毒株(各1株)のトランスクリプトーム解析を実施し,ヘテロカプサ強毒株が有する溶血活性に関連する可能性のある複数の遺伝子群を見出した。また,シオミズツボワムシ(以下,ワムシ)を用いたバイオアッセイの結果,増殖段階や培養条件による毒性の変化を観察した。また,昨年度は傾向が類似する初年度に解析した2株と昨年度に解析した3株における強毒・弱毒の組み合わせ(計3通り)について比較した結果,全てのケースで有意(PDR<0.05)に強毒>弱毒(139個)もしくは弱毒>強毒(49個)となる遺伝子を見出した。しかしながら,本年度は新型コロナウイルスの影響により,予定していた研究およびトランスクリプトーム解析を十分に進めることができなかったため,本研究課題を2021年度も継続することとし,研究分担者とウェブ会議等を活用して必要な準備を進めた。 一方,動物種の異なる赤血球を使って溶血活性試験を行うとともに,4種動物由来赤血球の細胞を構成するリン脂質の組成を調べた。結果として,高い溶血活性が確認されるのは,リゾホスファチジルコリンの含有率が高い場合,もしくは膜を構成する脂質の種類が少ない場合であることが示唆された。また,スフィンゴミエリンの含有率が高い場合は,溶血度が低くなる傾向にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の研究では,新型コロナウイルスの影響により,予定していた研究およびトランスクリプトーム解析を十分に進めることができなかったため,本研究課題を2021年度にも継続することとし,研究分担者とウェブ会議等を活用して必要な準備を進めた。 一方,動物種の異なる赤血球を使って溶血活性試験を行うとともに,ウマ,ウサギ,ヒツジおよびウシの赤血球の細胞を構成するリン脂質の組成を調べた。結果として,高い溶血活性が確認されるのは,リゾホスファチジルコリンの含有率が高い場合,もしくは膜を構成する脂質の種類が少ない場合であることが示唆された。また,スフィンゴミエリンの含有率が高い場合は,溶血度が低くなる傾向にあった。以上のことから,当該年度は新型コロナウイルスの影響により,トランスクリプトーム解析によるヘテロカプサの毒素本体の解明に関する研究に遅れが生じたものの,毒性発現メカニズムの解明に繋がる基礎的知見が集積できたことから,研究は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,栄養塩濃度(窒素やリンなど)の異なる培地で培養したへテロカプサ細胞を用いたトランスクリプトーム解析を計画している。また,また,得られた解析結果に基づき,ヘテロカプサの毒素産生に関与する代謝経路や二枚貝に対する毒性発現メカニズムの解明を進める予定である。 一方,毒素候補タンパク質の一次構造からエピトープを人工合成・免疫して抗体を作製し,ヘテロカプサ細胞における毒素の局在部位や毒素の毒性発現メカニズムについて検証を進める予定である。また,ヘテロカプサが現場で発生した場合は,これまでに確立したバイオアッセイ手法や免疫学的手法による毒性評価を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナウイルスの影響により,予定していた研究およびトランスクリプトーム解析を十分に進めることができなかったため,次年度使用額が生じた。このため,補助事業延長申請を行い,本研究課題を2021年度も継続する。2021年度は,次年度使用額を活用して毒素候補タンパク質の一次構造からエピトープを人工合成・免疫して抗体を作製し,ヘテロカプサ細胞における毒素の局在部位や毒素の毒性発現メカニズムについて検証を進める予定である。
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