2018 Fiscal Year Research-status Report
魚類の健全性に及ぼす酸化的環境ストレスの作用機序解明と科学的根拠に基づくその制御
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18K05814
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中野 俊樹 東北大学, 農学研究科, 助教 (10217797)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白川 仁 東北大学, 農学研究科, 准教授 (40206280)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 魚類 / 水産 / ストレス / 多環芳香族炭化水素 / 生理 |
Outline of Annual Research Achievements |
多環芳香族炭化水素(PAH)は石油やガスの不完全燃焼により生じ、環境に放出される。PAHには様々な分子量が存在するが、低分子PAHが魚類に及ぼす影響については知見が少ない。今年度は低分子PAHアントラセン(Ant)が魚類のレドックス状態に及ぼす影響を検討し健全性との関連について考察した。 (1) 試験魚:ギンザケ (Oncorhynchus kisutch、1歳魚、体重約213 g) にAnt(80 mg/kg 体重/日)を1週間または2週間経口投与した。(2) 各種バイオマーカーの測定 (2-1) 総グルタチオン (GSH)レベル:GSHレダクターゼを用いる酵素リサイクリング法により測定した。(2-2) 総抗酸化活性:活性酸素種と蛍光物質を組み合わせた酸素ラジカル捕捉能(ORAC)法で測定した。(2-3) 遊離アミノ酸レベル:組織のアミノ酸含量をOPA-HPLC法により測定した。 (1) GSHレベル:1週間と2週間の試験区間で違いが認められた。すなわち1週間投与では筋肉と血漿においてGSHレベルの増大が認められたが、2週間では血漿のみで増加した。(2) 総抗酸化活性レベル:1週間投与では対照区との間に違いは認められず、2週間では血漿でのみ増大していた。従って(1)の結果と合わせると、血漿の総抗酸化活性におけるGSHの寄与率の高さが窺われる。(3) アミノ酸レベル:2週間投与の肝臓において複数のアミノ酸レベルの増減が認められた。一方、筋肉では、1週間投与によるアミノ酸レベルに与えるAntの影響の方が2週間のそれより大きかった。以上のようにAntはギンザケの複数のバイオマーカーに影響を与えるが、レドックス状態に及ぼす影響は大きくないと思われる。 今後はPAHの分子種とバイオマーカーの動態、健康との関係などについて検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境ストレスの中で多環芳香族炭化水素アントラセンによる化学的ストレスに対する反応をギンザケを用いて解析した。各種バイオマーカーを組み合わせることでストレスの質を評価することが可能となり、本成果は次年度以降の研究展開に応用できると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画に大きな変更は要さない。今年度得られた結果を基に化学的ストレスに対してさらに解析を進め、他の環境ストレスの負荷による生体の反応をギンザケを用いて検討する。
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Causes of Carryover |
当初使用する予定で計上していた遺伝子解析用キットおよびタンパク質発現解析用の各種抗体が、現有のキットおよび抗体類で今年度はまかなうことが出来たので繰越しが生じた。次年度は繰越し予算も含め試薬等の消耗品費に充てる予定である。
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