2020 Fiscal Year Research-status Report
海洋プランクトン幼生の成長:摂餌の消化・吸収と栄養素の伝播・受容
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18K05829
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
金子 洋之 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 名誉教授 (20169577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉石 立 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 准教授 (60195526)
古川 亮平 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (90458951)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海洋性プランクトン / 棘皮動物 / イトマキヒトデ / 消化システム / ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 / 神経システム / 温度感受性チャネル / 神経ネットワークの崩壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、棘皮動物ヒトデ幼生の消化システムと神経システムに焦点を当てながら、成長に寄与する消化・吸収ならびに栄養素の伝播・受容を理解することにある。本年度はコロナ禍に伴って研究時間の確保が充分でなく、学会発表や論文発表といった発信作業は行えなかった。しかしながら、実作業としての実験に集中できた結果、本研究の質をアップさせることに繋がる有意義な結果を得ることができている。 消化システム研究においては、幼生の胃細胞だけのトランスクリプトームと、投餌の有無条件で飼育したビピンナリア幼生のトランスクリプトームの比較解析が実現し、胃細胞及び摂餌を行ったビピンナリア幼生で特異的に発現する遺伝子として、ヒトの糖尿病、肥満、脂肪細胞の分化に関わるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ:PPARG)と推測される転写遺伝子が高発現していることが見出せている。 一方、当幼生の神経システム研究テーマでは、温度感受性チャネル(Transient Receptor Potential channel A: TRPA)を特異的に発現して、正の温度走性を生み出す僅かな数の神経細胞が情報伝達や統合以外に成長制御も行なっている可能性を示す結果を追試により確認した。また神経細胞が集中する繊毛帯領域に間充足細胞が多数局在し、基底膜ECMの動体に深く関わりながら、神経細胞の生存を制御している可能性も指摘できるようになっている。 並行して行った核型トランスグルタミナーゼの機能解析から、この酵素が幼生期にヒストンH4の過剰合成を抑制することで、成長が正常に進むことも分かってきている。以上、全ての研究において、海洋生物学におけるプランクトン幼生の成長を理解する上で重要な分子レベルでの解析結果を手に入れることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍のため、学会発表などは行えなかったが、研究そのものは新たなデータも加わり、全体的にみれば本テーマはおおむね順調に進展していると考えている。 論文投稿を到着点とすれば、当初の計画どおりに3年目での着地には到っていない。 (1)消化システムの解析では、懸案であったセルソータ分画後の遺伝子発現解析に目処がついた。具体的には、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ:PPARG)の転写遺伝子が鍵となる根拠を得ており、その時空間的発現領域を確定すれば良いところまでこぎつけている。 (2)神経システムでは、 神経ネットワーク維持に関するTRPA遺伝子の関与の確認が行え、これも懸案であった他の神経遺伝子1F9の再クローニングが上手くいった感触を得ている。今年度に、1F9遺伝子のノックダウンでTRPA遺伝子と同様の表現型が得られることを観ていく。 (3)アスタチン型メタロプロテアーぜ(MC5)は、幼生期の発生速度の調整、翻って正常な成長のタイムコースを成立させる。その機能実体として、基底膜ECMの代謝活性を制御することをとおして上皮細胞の生存を担保していることが分かってきた。 (4)核型トランスグルタミナーゼの機能解析の中で、現在までに見出していたヒストンH4の二量化への関与に加え、ヒストンH4自身の生合成の抑制機能があることを見出した。そのメカニズムとして、機能性RNAが関与しているか否かを検証する実験に入っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を鑑みて、以下のように研究を進めていく。 (1)消化システムの解析で見い出しているペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ:PPARG)の転写遺伝子については、in situ ハイブリダイゼーション法 (ISH法)により、当該遺伝子の時空間的発現が胃であるか否かを確認する。 (2)細胞外マトリックスや間充織細胞の状態に対して1F9遺伝子やTRPA遺伝子が与える影響を解析する。また、より詳細なネットワーク状態不全の情報を得るために、透過型電験を用いて両遺伝子がノックダウンされた幼生の微細構造を解析する。 (3)MC5は論文投稿を行う状況にあり、審査員とのやり取りの中で、要求されれば新たな実験を加える。 (4)核型トランスグルタミナーゼの機能を裏打ちするメカニズム解析において、機能性RNAが選出できれば、その関与証明に入る。一方、機能性RNAの関与の関与の可能性が認められなかった場合は、どのようなエピジェネテイック変化が生じているかを解析するか、或いはヒストンH4の過剰発現でATPが枯渇している可能性を解析する。
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Causes of Carryover |
本研究のテーマは3年計画で申請し、採択された。しかしながら、最終年度にあたる3年目に、未曾有のコロナ禍が生じ、十分な研究時間の確保ができず、学会発表も滞ってしまった。そのような状況下でも、いくつかの有意義な結果を得ることができており、不足分の実験データを補完しつつ、論文発表にこぎつけたい。具体的な実験計画の要としては、各器官システムに特異的な遺伝子の時空間的な発現パターン、ならびに一部の遺伝子では機能解析の補完となる。これらは、in situハイブリダイゼーション法下での時空間的発言パターンの記述、およびモルフォリのオリゴを用いた顕微注射後の表現型解析となる。これらに必要な実験消耗品の購入、ならびに論文作製費として、科研費を使用する予定である。
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