2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋プランクトン幼生の成長:摂餌の消化・吸収と栄養素の伝播・受容
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18K05829
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
金子 洋之 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 名誉教授 (20169577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉石 立 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 准教授 (60195526)
古川 亮平 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (90458951)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 海洋性プランクトン / 棘皮動物 / イトマキヒトデ / サイズ依存性 / 発生シフト / TGFb / アポトーシス / アスタチン族メタロプロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、棘皮動物ヒトデ幼生の消化システムと神経システムに焦点を当てながら、成長に寄与する消化・吸収ならびに栄養素の伝搬・受容を理解することにある。本年度もコロナ禍による研究制限の状態が続いたが、複数の重要な研究データを得ることができた。その一部を用いて、学会発表を行った。 消化システムと神経システムの解明ポイントとなる幼生サイズの増加に着目した結果、胚期の時間依存的な発生様式と異なり、幼生サイズに依存した成長が進行して変態可能なステージに移行することを明らかにできた。この過程で摂餌は必要であり、(1)餌がない状態では変態可能になる前段階で形態形成が停止すること、(2)摂餌には感覚神経細胞が重要な働きをしていることも判明した。 一方、幼生成長の基盤をなす上皮細胞数の確保において、上皮細胞増殖の主因となる間充織細胞の膜型アスタチン属メタロプロテアーゼ(MC5分子)は、TGFbの潜在型から活性型への変換だけでなく、上皮細胞の生存自体をも担保している可能性を見出した。このとき、上皮細胞の生存に対するデフォルトの表現型は、細胞断片化によるアポトーシス細胞死である証拠も得られた。最終年では、既得したデータ解析や論文の補助的データ取得を含みつつ、研究の完成を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスの感染変動に祟られるように、計画していた複数の実験計画の遂行を諦めざるを得なかった。一方、この様な状況の中、基本に立ち戻るべく行った新たな実験から、本研究の目的である幼生成長の理解を導く複数の有意義なデータが得られた(それらの一部をまとめて学会発表にまで至っている:以下の(1))。また、昨年来進めてきた研究においても、論文完成へ向けて新たなデータの取得ができた(以下の(2))。 (1)受精後の初期胚から得た分離割球の胚期と幼生期における成長特性 時間依存的に進行する胚期の発生と異なり、摂餌を行うビピンナリア幼生期以降はサイズ依存的な成長段階のシフトが生じることが判明した。投餌必要性の検討により、ビピンナリア幼生期の前半は母性栄養で成長が可能であるのに対し、後半以降は餌が必須条件になることが示唆された。温度感受性の感覚神経細胞が発現しているTRPAチャネル機能をモルフォリノで抑制したところ、胚期の発生には何ら影響はなかったが、ビピンナリア幼生の摂餌量は減少し、成長速度が遅延した。 (2)アスタチン族メタロプロアーゼMC5分子によるアポトーシス細胞死の回避 最近、間充織細胞のMC5分子はTGFbを活性化させて上皮増殖を誘起することを証明できた。 これに加え、MC5分子は上皮細胞の生存にも関与している可能性も見出した。モルフォリノオリゴ(MO)でMC5分子の発現を抑制させたサンプルでは、アポトーシス細胞死が生じている現場として上皮細胞の断片化が、電子顕微鏡下で検出され、上記の可能性が支持された(TGFbが上皮細胞の生存に関与してないことは、TGFb-MOサンプルで確認した)。また、ペプチド性のアポトーシス阻害剤とMC5-MOの同時注射により、MC5-MOサンプルに特徴的な著しい細胞数の減少が緩和されるという強力な補助データも得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の完全な収束が早々には認められないこと、ならびに現在までの進捗状況を鑑みて、先ずは前項7に記載した内容に焦点を絞り、取得してきた実験データの解析を鋭意に進め、本年度中に複数の論文として完成させることを優先する。論文作成でのレフェリーとのやり取りにおいて割愛せざるを得ないデータが出た場合、また本研究を計画するにあたり貯めおいていたデータ(クラスリン分子による胃における消化)なども対象に、紀要などの予備研究報告書も考慮にいれ、可能な限り実験データを塩漬けにしないことに留意する。 一方、投稿論文の採択を目指すにあたり、レフェリーとのやり取りの中で要求される可能性がある補助実験を先に進める。具体的には、前項7の後半部に記述したMC5分子のアポトーシス回避機能において、そのメカニズムとして作動していることが推測される細胞外マトリックス成分であるコラーゲンタイプIVのMC5-MOサンプルにおける存在状態、MC5分子の発現局所性、MC5-MOの濃度依存的影響の解析となる。
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Causes of Carryover |
本研究テーマは3年計画で申請して採択されたものである。最終年度にあたる3年目に未曾有のコロナ禍に巻き込まれ始め、研究の絶対時間の確保が困難になっていた。このような状況下で研究速度はかなり遅くなったが、昨年度にはいくつかの有意義な実験データを得ることができ、論文作成の目処が立っている案件もある。以上を含め、本申請プロジェクトを正の状況で着地、成立させるべく、先ずは論文作成費やデータ解析費として残りの科研費を使用する。また、上記の8項で記したように、投稿論文の採択を目指す過程で、レフェリーとのやり取りの中で要求される可能性がある補助実験の解析のための研究費としても使用する。
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Research Products
(1 results)