2018 Fiscal Year Research-status Report
農業収入保険が酪農経営体のリスク外部化ツールとして機能するための条件に関する研究
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18K05840
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
仙北谷 康 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50243382)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 農業収入保険 / 家畜共済 / 家畜保険 / リスクマネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
収入保険が酪農経営体のリスク外部化ツールとして機能するためには、収入保険制度が保険としての機能を有していなければならない。そのためには第一に、保険の対象とする事故を、発生確率が十分に低いもののみに限定すること、第二に、発生確率を低くするような取り組みを、加入者に働きかけること、以上二つの方策が必要である。平成30年度は、上の二つの面で家畜保険が保険制度として成立している事例と考えられるデンマークの家畜保険制度を分析した。デンマークの制度は損害保険の面で、酪農家のリスクマネジメントツールとして機能している。そこで、酪農家の加入及び保険金受給の実態について、デンマークの酪農家の実態及び保険会社の実態を調査した。 デンマーク国内において酪農家に乳牛死廃保険を提供している会社は4社存在する。これまで調査した、シェア最大の企業について、引き続き調査を実施した。従来の調査において、保険金支払い対象となる事故について、10日間に6頭の死廃事故がある場合に限定されていることが明らかになっていた。しかしその場合、6頭未満の事故に対しては全く支払われないため不公平が発生すると考えられること、また、デンマークにおける酪農飼養頭数規模の拡大に伴って、支払い対象となる事故発生確率が高くなると考えられること、以上のような点について、リスクマネジメントの点から明らかにする必要があった。 これらについて、本年度改めて調査したところ、制度が大きく変更されていることが明らかになった。また、酪農家においても飼養頭数規模が平均的であっても、マイコプラズマの発生によって保険金支払いを受ける場合があるなど、支払実態についても明らかになった。 これらの支払い実態については、シミュレーション分析によって裏付けをとることが可能となり、頭数規模の拡大によって、従来の家畜保険制度の前提が崩れていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、予定していたデンマーク酪農について、酪農家の調査と家畜保険シェア最大の企業に対して調査を実施することができた。家畜保険制度における支払条件の変更については、当初予想していなかった点ではあるが、家畜保険制度を理解するうえで重要であったといえる。つまり、ある時点では条件としては制度成立のための合理的なパラメータと思われていたものが、そうではなくなるということであり、酪農飼養頭数の増加によって、1頭あたり危険率は一定であっても、経営としての事故率は飼養頭数増加に伴い上昇するのである。そのため、保険金支払いの条件は常に妥当性をモニタリングする必要がある。 デンマークにおける酪農家調査は、平均飼養頭数規模をやや超える酪農家と、平均規模を大きく越える、デンマークにおけるトップ40農場規模の経営実態を調査する機会を得た。これによって、今後のデンマーク酪農における家畜保険の改善方向を考察する機会を得たとともに、わが国の家畜共済(保険)の改善方向にも大きな示唆を得ることができた。 調査結果は現在投稿準備中の論文に反映される予定である。2018年秋の、日本農業経営学会で報告し、その成果を報告論文として学会誌に投稿したが、内容を精査した学会誌編集委員会から、報告論文(紙幅は約6ページ)ではなく研究論文(紙幅は約20ページ弱)として投稿することをすすめられ、これに応じることとし、同時にデンマーク調査の結果も盛り込むこととした。以上のことを踏まえると、研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究の第一は、2018年度の学会報告及びデンマークの調査内容を踏まえ、研究論文として学会誌に投稿することである。学会としては昨年秋に口頭で報告した日本農業経営学会を想定している。ここでわが国とデンマーク、韓国の家畜保険(共済)を比較することで、わが国家畜保険(共済)の特質を明らかにするとともに、デンマーク的な家畜保険が実現するための制度設計を試みる。 今年度の調査研究としては、今年度から実施される収入保険について、加入申請の進展について調査する。2018年度にもすでに家畜共済組合への聞き取り調査を実施しており、加入状況はなかば予想通りではあるが、非常に低いことが明らかになっている。このことを踏まえ、主として調査協力が得られる共済組合の組合員に対して、収入保険に加入しない理由について調査を実施する予定である。その結果は、日本農業経済学会もしくは日本経営学会で報告する。 現在の制度では、収入保険がいわばフローとしての農業収入を補償するものであり、家畜共済制度はストックとしての家畜資産を補償するものであるから、重複して加入することは可能である。しかし酪農家にとってはストックの保険である家畜共済がフローの補償的にも捕らえられている面があると考えられる。その実際を理論的実体的に明らかにし、制度の改善に対する提言をまとめることが今年度の最大の取り組み内容である。特に注目するのは、収入保険によって、死廃事故共済を受け取らない加入方式(1号除外)の酪農家が、収入保険にどのように対応するのか、という点である。収入保険の導入にともない従来の家畜共済が、明確に死廃共済と病傷共済に分けられ、農家も意識するようになったと考えられる。それが共済選択にどのように反映されているのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
デンマーク旅費そのものは計画よりも少ない額で実施することができたが、その他で計上していたレンタカー借り上げ費用が、旅費から支出された。これによって旅費はほぼ計画通りの金額であったが、その他の経費に比較的大きな残金が発生した。 論文掲載については、当初報告論文での投稿を予定していたが、編集委員会からより紙幅のある研究論文での再投稿を要請されたため、今年度の投稿を見送った。そのため投稿料の残金も発生した。 物品日については極力支出を抑える目的から本学研究費から支出したため使用しなかった。
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