2019 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Regional Characteristics of Agricultural Structure under Changing Labor Market Environment
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18K05860
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
山崎 亮一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10305906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 祥穂 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40345062)
曲木 若葉 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (80794221)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地域労働市場 / 農業構造 / 近畿型 / 東北型 / 農業生産法人 / 長野県 / 青森県 / 雇用劣化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年9月に、長野県宮田村にてN集落を対象とした集落調査を実施した。N集落は60世帯からなる集落だが、そのうち調査対象となることを受諾してくれた、51戸を対象として調査を行った。この集落は、その時々により調査実施主体は異なるものの、同様の調査が、過去にも(1975年、1983年、1993年、2009年)連綿と行われてきた地である。今回が5回目の集落調査である。研究代表者は1993年から参加してきた。こうした集落調査には、多大な費用と労力、さらには調査者の熟練を要するものの、農業構造の展開を貫く論理を抽出する上で重要な意義を持っている。とりわけ研究代表者達は、農家世帯を、農業を経営する主体の面からのみ捉えるのではなくて、農外へ労働力を供給する主体の面からも捉えており、こうした複眼的な視点で農家世帯を見ることにより、農家経済の全体像を捉えることが可能となっている。 N集落を対象とした調査は上述のように既に40数年の歴史を持っており、過去の調査結果を分析することを通じて長期的な動向を総括することも可能である。しかし、ここでは、今回の2019年調査と2009年調査の結果を比較することを通じてこの間の変化を摘記する。 先ず、対象地の地域労働市場は、2009年時点には、研究代表者等が1990年代から「近畿型地域労働市場」と表現してきた、「青壮年男子の農外就業先に『切り売り労賃層』と呼ばれる低賃金不安定就業層を検出しがたい」点に基本的な特徴を持っていた。それが、2019年時点には、この年齢層の男子に、低賃金不安定就業層を検出できるようになったのである。これは、2010年代に全国的レベルで急速に進行した非正規雇用者の増加と雇用劣化が、対象地でも現れていることを意味している。第2に、こうした背景の下、青壮年男子の中に、農外就業と比較して農業に積極的に取り組もうとする流れが現れてきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題で当初の調査対象地として予定していた青森県・五所川原市、長野県・上伊那郡・宮田村において、それぞれ数十戸程度の農家世帯を対象とした集落調査を既に行うことができた。一般に調査結果をまとめる場合には、中間集計表の作成→データの分析→分析結果の研究チーム内部での検討→調査対象地での補足調査→現地報告会→論文等を通じた結果公表、の手順を踏むことになる。五所川原市で収集した資料の分析は既に完了しており、春先に現地報告会を行う予定であった。だが、現下の新型コロナウイルス騒動のためにそれを行うことができないでいる。しかし、現地報告会は研究を進めて行くうえでどうしても必要なものではなく、事情があって実施できない場合には、やらないという選択もありうるであろう。宮田村の調査結果は、既に中間集計表の作成を終えており、さらにそれをある程度分析して、分析結果を研究チームの内部で検討するところまで行っている。こうした経緯を考慮して、本課題の現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」に相当すると判断したわけである。
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Strategy for Future Research Activity |
青森県・五所川原市における調査結果は、研究分担者の手によって既に論文化するところまで行っているので、あとはこれを完成させて、『農業経済研究』等、しかるべき学会誌に投稿することになる。長野県・宮田村における調査結果は、分析結果を研究チームの内部で検討するところまで行っているが、その検討をふまえて調査対象地で今後新たに補足調査を行なえるかどうかは、現下の新型コロナウイルス騒動下では何とも言えない。今後は、場合によっては、補足調査を行わずに昨年に集めたデータのみに基づいて論文化を進めるか、あるいは補足的にどうしても必要な情報は電話やインターネットで可能な限り集める。ともかくこうした作業を経て、宮田村の調査結果についても論文化の作業を進める。 さらに今年度に予定しているのは、こうした調査や過去の研究蓄積を基にした書籍の刊行である。五所川原、宮田村の両方の調査対象地を視野に入れた書籍を刊行するのも一案だが、それはコロナ恐慌の全国的影響を扱う別の著作で行った方がよく、そうした点が未だ論点になっていなかった今回の調査を基に書籍を刊行する場合には、伊那谷に絞り込んだ書籍にした方がよいと思われるので、その線で、現在、作業を進めているところである。それは、2015年3月に筑波書房より刊行した星勉・山崎亮一『伊那谷の地域農業システム』の、今回の2019年調査をふまえた続編になるとともに、宮田村における過去40数年間にわたる調査結果を総括するものになるであろう。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、2019年度に当初に計画していた通りの調査研究および研究成果の社会還元をほぼ実施することができたが、そのために必要な経費は、本研究課題で支給された研究資金に加えて、格安チケットを購入することができたために、十分に確保することができた。そのことによって余剰が生じてきた本研究課題の研究資金は、2020年度に実施する予定の書籍等を通じた研究成果のための予算の中に充当する予定である。
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Research Products
(11 results)