2018 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の食意識・食行動・食事満足度に関する都市・農漁村の比較
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18K05865
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 章 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50346376)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高齢者 / 孤食 / 食意識 / 食行動 / 食生活 |
Outline of Annual Research Achievements |
最近,急速に進展する高齢化への対処が喫緊の政策課題となるに伴い,行政機関・民間研究機関・研究者らによる高齢者研究が活発化している。しかし意外にも,日々の食事が日常生活の重要な構成要素でありながら,高齢者の「食に対する満足感」や「食行動・食意識」に関する社会科学研究は緒に就いたばかりである。こうした状況を踏まえて,今年度は内閣府あるいは農林水産省が毎年実施している「食育に関する意識調査」の個票データを用いることによって,高齢者の食行動・食意識や食事満足度を規定する要因を定量的に検討した。 「食育に関する意識調査, 2012」の個票データを用いた定量分析の結果,1)75歳以上の後期高齢者は65歳から69歳の高齢者と比較して,規則正しい食生活を過ごすように気をつけており,食事時間をより楽しんでいること,2)男女問わず配偶者と同居している高齢者は食意識・食行動・食事満足度が高く,男女ともに独居高齢者は食意識・食行動・食事満足度が低いこと,3)主観的健康感が高い高齢者ほど食意識が高く,栄養バランスのとれた食生活をとり,食事を楽しんでいること,4)食に関する情報量をより豊富に有する高齢者ほど食意識が高く,望ましい食行動を実践しており,食事満足度も高いこと,5)経済状況や居住地が高齢者の食意識・食行動・食事満足度に及ぼす影響は小さいこと,が明らかとなった。 さらに,2016年調査と2017年調査のプールデータを用いて孤食が食意識・食行動に及ぼす影響を定量的に検討した結果,1)男性は女性と比較して食意識が低くかつ食行動が乱れ気味であること,2)家族と同居していながら孤食頻度の高い男性高齢者は男性の独居高齢者と同程度に食意識が低くかつ食行動が乱れていること,3)経済的にゆとりがあり豊富な食情報を有する高齢者ほど良好な食生活を過ごしていること,が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国規模で実施された調査の個票データを用いて定量分析を行うことにより,高齢者の食意識・食行動や食事満足度に影響を及ぼす要因を検討することができた。さらに,研究成果の一部をとりまとめた論文がインパクトファクターの対象英文誌に掲載予定である。こうした進捗状況を勘案した結果,「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,昨年度の研究成果を踏まえつつ,高齢者の食行動・食意識・食事満足度の規定要因に関する分析を精緻化するために,地域内(家族形態間,年齢層間,男女間)および地域間(都市部と農漁村部の間)で規定要因に如何なる差異があるかを解明する。さらに,「食」が主観的幸福感に及ぼす影響に如何なる地域差があるかを検討すると同時に地域差の背景要因を解明する。そのために,都市部・都市近郊地域,中山間地域,漁村・沿岸部で実施する面接調査あるいは質問紙調査,内閣府や総務省等から提供を受ける大規模標本調査の個票データ・匿名データを用いて定量手法を行う。より具体的には,以下の3つのテーマに分割して研究を推進していく予定である。 テーマ1:都市部,中山間地域の農村部,漁村部・沿岸部の地域ごとに,分散分析や多重比較の手法を適用することによって,家族類型,前期高齢者と後期高齢者,男女の間で高齢者の食意識・食行動・食事満足度に如何なる差があるかを解明する。 テーマ2: 共分散構造分析による多母集団比較や一般化順序ロジットモデルなどの定量手法によって,高齢者の食意識・食行動・食事満足度の規定要因を検討し,家族類型,前期高齢者と後期高齢者,男女の間で規定要因にいかなる特徴があるかを地域別に解明する。 テーマ3:「食」が主観的幸福感に及ぼす影響に如何なる地域差があるかを検討し,上記テーマ1とテーマ2の分析結果も踏まえつつ,その地域差の背景要因を解明する。 なお研究成果に関しては,今後,先進国やアジア諸国を中心に高齢者に関する社会科学研究が活発化する可能性を考慮して,海外の研究雑誌に積極的に論文を投稿していく予定である。
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Causes of Carryover |
近年高齢者研究が急速に進展している状況を踏まえて成果発表(印刷物)の速報性を重視した結果,当初予定していた学会報告をせずに論文投稿を進めることとした。また,研究推進上必要な機器(プリンタ等)や消耗品の多くを別予算で処理できたこともあって,44.4万円の研究費を次年度に繰り越すこととなった。こうした繰り越し分については,次年度(2019年度)の早い時期に投稿予定の論文(3編)の英文校閲料および投稿にかかる諸経費(35万円),学会報告にかかる交通費やその他費用(9.4万円)に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)