2018 Fiscal Year Research-status Report
ため池の最適管理の提案に向けて-小規模水域の水質-生態環境解析モデルの構築-
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18K05881
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
齋 幸治 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (30516117)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ため池 / 水質 / 外来性水生植物 / 生態環境 / 水理環境 / 植物プランクトン |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度においては,高知県下の農業用ため池を対象に,抽水・浮葉植物の時空間的繁茂状況の調査ならびにそれらが水域内の水質・生態・水理環境へ及ぼす影響について究明した. 植生繁茂状況の調査においては,無人空撮機を用いて水面上の植物被覆率を月毎に求めた.その結果,表面被覆率は繁茂期である8月に61.4%となり,10月に入ると14.4%まで低下した.7月の豪雨により,大量のホテイアオイが系外へ流されたことにより,ホテイアオイが水表面を占める割合は,例年と比較して大幅に減少した.一方で,ホテイアオイの流出後,表面植生に占めるヒシの割合が大きく増加した.すなわち,ホテイアオイの減少に伴い,ヒシが分布を拡大させたと考えられた.ヒシの異常な繁茂が及ぼす環境問題も指摘されており,今後の水環境の管理を考えるにあたって,要注意外来生物であるホテイアオイの駆除のみでは不十分であると考えられた. 抽水・浮葉植物の有無による水質環境等の違いについて解析した結果,植生の繁茂しやすい浅水深の領域において,年間を通じて栄養塩濃度が高く,日内での水温変動が大きかった.一方で,水域内の植物プランクトンと水質との間に明確な相関関係はみられなかった.また,水生植物群落内における植物プランクトンの存在量は,日射の遮蔽効果や動物プランクトン等による捕食圧の影響を受けて,植生のない領域より少なかった. つぎに,植物群落が水域内の水理環境に与える影響について検討した.植物被覆の有無および水深の条件により水域内の3地点を設定し,水面下約10cmの水平流速を測定した.各地点において水面上の摩擦速度と流速の比を算定した.その結果,植物被覆のある地点では,被覆のない地点に比べて,流速/摩擦速度比は極めて小さな値となった.このことから,植物群落は風が与える水の駆動力を大きく阻害していると推測された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において実施予定であった研究・調査内容は,【1】水質-生態環境の現状把握,および【2】外来性水生植物を対象とした分布調査ならびに水環境へ及ぼす影響の定量化,であった.研究・調査環境・設備の整備から,基礎的データの収集までおおむね順調に進めることができた. 具体的には,【1】において,植物プランクトン,抽水・浮葉植物等の生物量および種構成の情報把握を目的とした調査を行い,ほぼ年間を通じた基礎的データを得ることができた.また,【2】においても,外来性水生植物を対象とした分布調査の実施ならびにそれが水環境へ及ぼす影響について解析し,とくに,植物群落が水理環境へ及ぼす影響について定量化することができた. 一方で,2018年度においては,高知県下において数日間の内に1,000mm以上の降雨が観測されるなど,極めて特異な気象条件に見舞われた期間でもあった.この影響を受けて,対象とした水域において,抽水性外来植物であるホテイアオイが,一時期にほぼすべて系外に流出するなど,想定外の事態も発生した.そのため,当初重要な研究対象として設定していたホテイアオイに関する調査・解析(時空間的分布の把握・水域内の環境へ及ぼす影響の解析)について,十分な成果が得られなかった. 次年度においては,以上の基礎調査を継続し,データの集積に努めるとともに,初年度からの課題として,ホテイアオイに関する調査・データの解析を進めていく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
上述【現在までの進捗状況】の通り,水域内の基礎データの集積および外来性植生の時空間的分布特性に関するデータの集積を継続する.とくに,ホテイアオイに関しては,2018年7月豪雨による系内存在量の激減から,次年度にどのような勢力で分布を広げていくのか,注視する予定である.また,浮体である抽水植物が,水域内の水温環境・物理環境へ及ぼす影響について,観測・ベンチスケールレベルの実験により解析予定である. また,ため池の水環境解析数理モデルの構築の準備として,水域内水温解析モデルのコーディング・解析を進める.これまでに得られた水質・生態・水理環境データを積極的に活用し,再現精度の高いモデルの構築を目指す. 以上のように,異常気象の影響により,当初計画の一部変更(ホテイアオイに関する基礎的資料の収集等を2019年度に実施)があるが,おおむね当初の計画通り研究が進められており,各課題の達成に向けて,活動を鋭意進めていく予定である.
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