2019 Fiscal Year Research-status Report
ため池の最適管理の提案に向けて-小規模水域の水質-生態環境解析モデルの構築-
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18K05881
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
齋 幸治 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (30516117)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ため池 / 水質 / 外来性水生植物 / 生態環境 / 水理環境 / 植物プランクトン / 水環境解析 / AI |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である2018年度においては,本研究の重点的課題である【1】水質-生態環境の現状把握,の項目を主に実施した.すなわち,対象となる高知県内の農業用ため池を対象に,水質・生態系モニタリングによるデータの集積を行った.これにより,対象水域の有機汚濁・富栄養度の状況や,溶存酸素の時空間的変動,水塊の密度構造等の水域内環境の基礎的理解が進んでいる.また,生態環境調査として,植物プランクトン採取・観察も実施し,種構成の季節的消長といった資料も得た.さらに,初年度より無人空撮機を活用した水生植物の存在量調査も実施し,夏季の異常繁茂の状況も定量的に把握することができた. 2019年度においては,初年度の基礎調査を継続するとともに,本研究の重点的課題【2】外来性水生植物を対象とした分布調査ならびに水環境へ及ぼす影響の定量化,および【3】数理モデルへの植生データの活用とモデルパラメータの最適化,に取り組んだ.課題【2】について,無秩序な水生植物の繁茂が水域内の水理環境へ及ぼす影響について,定量的に調査した.具体的には,植物の水面への被覆が,風邪の駆動力をどの程度阻害するかについて,現地観測を通じて検討した.その結果,植物被覆のある地点では,被覆のない地点に比べて,水域内流速と水面摩擦速度の比は極めて小さな値となり,植生が水域内の流動を極めて強く阻害していることが明らかとなった.また,浮遊・浮葉植物(ホテイアオイ,ヒシ)ともに,水中の乱れエネルギーを減衰させ,懸濁物の沈降,水深の低下を招いていることが懸念された.課題【3】について,2019年度においては,AI技術といった非物理的アプローチにより,水域内環境の解析・将来予測を行った.現時点までに得られた水質・気象データを教師データとして,水域内の水温・密度構造のリアルタイム予測を実施した結果,概ね良好に水域内環境の予測を行うことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画内に実施した重点的課題【1】水質-生態環境の現状把握(水質・生態系モニタリング,データの集積),【2】外来性水生植物を対象とした分布調査ならびに水環境へ及ぼす影響の定量化,【3】数理モデルへの植生データの活用とモデルパラメータの最適化,への取組については,計画通り活動を実施し,有益なデータ・解析結果を得ることができており,概ね良好に研究は進捗している.ただし,2018年度,2019年度ともに,梅雨期,夏季において,豪雨の多発,記録的猛暑等,平年時を逸脱した特殊な気象条件となったことから,とくに水生植物の繁茂状況について平年時のデータが得られていない可能性がある.加えて,2019年度に実施予定であった植物被覆上の熱収支の観測についても,豪雨による浮揚植物の流出および観測機会現象から実施不可となり,次年度へ持ち越された. また,研究代表者の心身的健康の崩れから,研究成果のアウトプットの部分において,当初の計画より遅れているのが現状である.論文執筆および学会講演会を通じた研究成果の公表を積極的に進めていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度までにおいて,調査・解析活動は順調に進んでおり,有益なデータも得られている.ただし,前述の通り,研究初年度から特殊な気象条件が続いたことにより,水生植生の季節的消長について十分なデータが得られていないことが危惧される.そのため,今後も植生状況の観測は継続して実施し,さらなるデータの集積に努める.併行して,2020年度においては,重点的課題【3】数理モデルへの植生データの活用とモデルパラメータの最適化を主な活動の柱として,研究を進めていく予定である.具体的には,既存の水環境解析数理モデルに,水生植物繁茂の情報を加えて,ため池のような小規模スケールの水域に対応した水質-生態環境解析・将来予測モデルを構築する.また,最新のモデルパラメータ最適化手法を導入し,解析の高精度化を計る. 進捗の遅れている研究成果の公表について,これまでの研究成果を早急に取りまとめ,論文の執筆に努める.
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Causes of Carryover |
本研究における重点的課題【2】外来性水生植物を対象とした分布調査ならびに水環境へ及ぼす影響の定量化,を実施するにあたり,2019年度に水面の植物被覆上の熱収支の観測を実施する予定であった.しかしながら,2018年度の記録的豪雨による浮遊植物の流出の影響を受けて,2019年度においても観測対象のホテイアオイの観測可能な群生が発生せず,この観測については2020年度に持ち越しとなった.そのため,気象・各種放射計測器具への支出用の経費が2019年度に執行されず,その分の次年度使用額が生じた.
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