2020 Fiscal Year Research-status Report
スイゼンジノリの保全に向けた黄金川の湧水量減少原因の解明と流量回復への方策
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18K05882
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
谷口 智之 九州大学, 農学研究院, 助教 (00549123)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スイゼンジノリ / 湧水 / 冬期湛水 / 生物保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドローンを用いた空中撮影により,黄金川周辺農地(約30 ha)の代かき期の湛水進行と刈り取り前の落水状況の経日変化を把握した.別途,観測した黄金川周辺の地下水位変動と比較したところ,周辺農地の湛水・落水進行と地下水位変動はほぼ一致したことから,広範な農地からの浸透による地下水位によって黄金川の湧水が発生していることが示唆された.仮に冬期湛水によって非灌漑期の湧水を回復させるためには,少なくとも本調査範囲のすべての水田を湛水する必要があると考えられる.ただし,対象地区内の多くの水田では裏作が行われており,冬期湛水を実施する場合にはその補償が発生する.補償額とポンプ運転費を比較した場合,現在のポンプによる流量確保が現状では合理的な対応であるという結論が得られた. また,アンケート調査を実施し,黄金川とスイゼンジノリに対して地元住民が感じている価値を評価した.地元住民への事前の聞き取りをもとに,黄金川が有する価値として4属性(景観,希少生物,イベント,環境教育)を設定し,コンジョイント分析を用いて各属性の価値の大小関係を分析した.その結果,地元住民は黄金川に対して希少生物と景観の点で高い価値を感じていることが明らかになった.また,景観に価値を感じている回答者は相対的に希少生物に対して感じる価値が低いなど,属性の価値基準には大きな個人差がみられた.このことから,スイゼンジノリを保全する目的であっても,景観を悪化させるような対策では一定数の住民の賛成が得られない可能性があることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた,課題①「黄金川湧水量の減少原因の解明」,課題②「周辺農地からの排水による黄金川の流量確保の検討」,課題③「周辺水田域の冬期湛水による湧水回復の検討」のすべての結果が得られた.その結果,スイゼンジノリの保全対策として考えた,周辺農地からの排水導入は水質(特に水温)が適さないこと,また,冬期湛水は水量と協力農地への補償の面で実施が困難であることが明らかになった.このことから,現在のポンプによる流量確保以上に有効な対策は現状では考えにくいという結論が得られた. それに加えて,2017年の九州北部豪雨では9割以上のスイゼンジノリが流亡するなど,スイゼンジノリの保全には豪雨対策も急務であることが明らかになった.
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画していた課題については一定の結論が得られたが,結果的にスイゼンジノリの保全に関する有効な方策を提示するまでには至っていない.現在のポンプによる流量確保は地元にとって大きな経済的負担となっており,それを節減する対策が求められることが大きな課題となっている.これまではポンプ運転を別の対策に変更するという視点で研究を進めてきたが,今後はこれまで検討してきた複数の対策を組み合わせることによって,ポンプ運転費を節減するという視点での検討を進める. また,豪雨の影響も含めて,本地区の自然条件下での生育は絶滅のリスクをはらんでいることから,種の保全の観点での保全対策も検討する必要がある.本研究のとおして他分野(細胞生物学など)の研究者や企業との連携が実現しており,2020年度には研究交流会の開催を予定していた.新型コロナウイルスの影響で本交流会は中止となったが,このような他分野との連携を推進し,行政,企業,地元業者を巻き込むことで今後の具体的な保全対策の方針を提示することを目指す.
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Causes of Carryover |
学会参加や現地調査のための費用を計上していたが,新型コロナウイルス感染拡大にともなう学会のオンライン開催,ならびに,行動制限等による現地調査の自粛のため,旅費が抑制された.また,アンケート調査についても,当初は朝倉市全体を対象とする大規模なものを計画していたが,新型コロナウイルスの影響で対象を黄金川周辺の地元住民のみに限定したため,アンケート調査費が大幅に縮減した. 本予算については,現地調査や学会・研究交流会の実施費用のほか,スイゼンジノリの保全対策を検討するための追加調査の観測機材の購入費に充てる.
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