2019 Fiscal Year Research-status Report
海域-大気-沿岸農地連続系におけるスケールギャップを考慮した潮風害予測手法の構築
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18K05883
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
弓削 こずえ 佐賀大学, 農学部, 准教授 (70341287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿南 光政 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80782359)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海塩粒子 / 塩害 / CFD / 移流拡散 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に構築した海域を対象にした砕波の挙動を再現するためのシミュレーションモデルの精度向上を図り,砕波から発生する微細飛沫の挙動を解明するための手法の確立に着手した.具体的には,粒子法を導入して,砕波から微細飛沫に至るまでの発生プロセスを明らかにし,微細飛沫の挙動を予測するためのシミュレーションモデル構築に取り組んだ.学内において水槽実験を実施し,シミュレーションモデルの妥当性を確認した. 砕波から発生した微細飛沫によって,海上には海塩粒子が浮遊する水蒸気圧の高い層が形成され,これが風によって陸域に輸送される.この気層の発生プロセスを,エアロゾルおよび水蒸気によって雲が発生する過程と同様であると仮定し,スケールダウンした雲微物理モデルを導入することで解明を試みた.このモデルを用いて微細飛沫によって形成された気層中の塩分や水蒸気などの物質動態を評価した. また,前年度と同様に,台風などの強風後における作物の被害状況の調査を実施して,潮風害が発生する風況(風向および風速)や,潮風による農作物の被害が発生する範囲に関するデータを蓄積した.この結果を参考に,海上に巻き上げられた海塩粒子が陸域に輸送されるプロセスを表現するためのシミュレーションモデルの構築に取り組んだ.基本的なモデルについては前年度に概ね構築してきたが,作物群落が風況に及ぼす影響をより精緻に考慮するために,モデルに組み込むための作物条件(作物高さや葉面積密度)や吸送距離について現地調査を実施してデータを蓄積した.実際の作物圃場を再現した風洞実験を行うことで,シミュレーションモデルの妥当性を確認した.さらには,潮風によって農地土壌中に輸送された塩分が農地の生産性に及ぼす影響を評価するため,土壌中における物質移動を予測するシミュレーションモデルを構築した.このモデルによって,作物が受けるストレスを評価することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
砕波および微細飛沫というスケールギャップを考慮してそれぞれの挙動を解明することを目指して研究を行った結果,前年度に構築した砕波に関するシミュレーションモデルに加え,微細飛沫の発生過程と挙動を解明するための基本的なシミュレーションモデルを構築することができた.今後は,微細飛沫中の塩分濃度および水蒸気圧を定量的に評価することを目指す予定であるが,このためにはこれらの手法のさらなる精度向上が必要であると考えられ,今後も実験を継続してデータを蓄積する予定である. 砕波から発生した微細飛沫によって形成される塩分濃度と水蒸気圧の高い海上の気層が発生するプロセスを評価するための基本的な手法を構築することができた.気層中の物質の定量評価するには,モデルの精度を向上することが必要であるため,さらなる実験を実施して気層中の水蒸気圧や塩分濃度などのデータを蓄積することが必要であると考えられる. また,海上に巻き上げられた海塩粒子が陸域に輸送される過程については,前年度に構築したシミュレーションモデルの精度を向上させるために現地調査を行ってデータの蓄積に努めた.また,潮風によって輸送された塩分が農地の生産性に及ぼす影響を評価するためのモデルを構築することもできた.これらの手法の妥当性を確認し,今後の現場適用性を評価するためには,さらに実験や現地調査を実施することが必要であると考えられる. 今年度は,天候などの影響によって当初予定していたよりも現地調査の頻度が少なくなった.今後は近隣の沿岸農地を対象にするとともに,地元行政で過去に測定した各種観測データの提供も受けるなどして,データの一層の蓄積を目指す必要があると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
海域における砕波および微細飛沫の挙動を解明するシミュレーションモデルの精度向上を図り,微細飛沫中の塩分濃度と水蒸気圧を定量的に評価することを目指す.具体的には,学内の風洞装置内に沿岸部を模した水槽を設置し,強風条件下における微細飛沫の発生プロセスを確認するとともに,微細飛沫中の塩分濃度および水蒸気圧を測定する予定である.これらのモデルをスケールアップし,水槽実験に加えて現地調査を実施することで,これらの手法の現場適用性を確認する. 砕波から発生した微細飛沫によって形成される気層中の塩分濃度および水蒸気圧を定量的に評価することを目指す.このためには,本研究で導入した雲微物理モデルをベースとする手法の精度を向上させることが必要であり,さらなる風洞実験を実施してデータの蓄積を図る予定である. また,海上に巻き上げられた海塩粒子が陸域に輸送される過程については,これまでに構築したシミュレーションモデルの精度向上を図るとともに,今後はモデルをスケールアップして現場での適用を目指す.今後は,風洞実験の条件を複雑にして実験を実施するとともに,沿岸部の農地において現地調査を行い,本研究で構築した手法の精度と現場適用性について評価する. 今年度,潮風によって農地土壌中に輸送された塩分動態を明らかにするシミュレーションモデルを構築したが,今後はこのモデルの妥当性を確認するための現地調査あるいは圃場実験を行い,潮風が農地の生産性に及ぼす影響を定量的に評価する予定である. 以上の各手法で得られる結果を踏まえ,沿岸農地における潮風害のリスクを軽減あるいは回避するための手法を具体的に提案することを目指す.
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Research Products
(6 results)