2018 Fiscal Year Research-status Report
低フィチン穀類によるリン酸資源の有効活用と環境負荷低減
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18K05948
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
実岡 寛文 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70162518)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低フィチン / フィチン酸 / ダイズ / リン酸資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイズは植物性飼料原料として利用されているが、有機態リン酸化合物の一つであるフィチン酸が大量に含まれている。フィチン酸は、鶏、豚などの単胃動物では吸収・利用できないため、濃厚飼料中のリン酸の多くが環境中に排泄されている一方で、家畜のリン酸の吸収・利用を高めるために有限なリン酸資源が濃厚飼料に添加されている。また、フィチン酸にFeやZnなどの微量元素が結合したフィチンは、抗栄養成分として知られ、フィチン酸は微量元素の吸収阻害要因の一つにもなっている。代表者は、こうしたフィチン酸に関わる問題を解決することを目的に、種子の全リン酸含量は普通栽培品種と変わらないが、フィチン酸含量が低く無機態リン酸含量の高い「低フィチンダイズ」を育成し多くの系統を保有している。しかし、育成した低フィチンダイズを利用するためには生産性の高い系統の選抜が重要である。 そこで、本研究では、ダイズの生産性に影響を及ぼしている環境要因の中でも乾燥ストレスとリン酸施肥に着目し研究を行った。乾燥ストレスは西日本において梅雨上げ後に寡雨と高温がダイズの生産に大きな影響を及ぼしている。また、リン酸施肥については、施肥したリン酸は主に土壌において有機態Pや難溶性Pとなり植物に利用されるリン酸が少なくなるため、リン酸施肥量が少ない条件下でも生産性の高い低P耐性系統を育成することは重要となっている。 2018年度は、F12系統20系統を圃場栽培し、普通栽培品種「エンレイ」と収量を比較しながら生産性の高い低フィチン系統を選抜した。また、リン酸施肥量の少ない条件での生産性の低下程度の違いから低リン耐性系統の選抜を行った。さらに、乾燥ストレスに対して感受性の高い生育時期を明らかにすると同時に乾燥ストレス耐性を持つ系統を選抜した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の本研究の主な計画は、低フィチンダイズの選抜である。2004年度の突然変異体と西日本で栽培している普通品種2品種と交配しF1系統を得た。F1種子を2005年度に圃場栽培し、種子の無機態リン酸を測定することによって全リン酸濃度は変わらずフィチン態リン酸のみ低いF2系統を得た。2018年は、それまで選抜して中からF12系統を選び、5月下旬に広島大学精密実験圃場に播種し、10月下旬の収穫適期に収穫し収量調査を行った。その結果、普通栽培品種「エンレイ」と収量が同程度かそれよりやや高い低フィチン系統が選抜できた。 また、リン酸施肥量を変えたポット栽培試験を行い、リン酸施肥反応性と低リン酸条件下で生育および窒素固定、光合成速度など生理学的反応性の違いを低フィチン系統と普通栽培品種「エンレイ」と比較検討した。その結果、リン酸施肥量の低い条件下での生育量の違いから、低リン酸耐性の高い系統を数系統選抜することができた。 さらに、西日本においてダイズ栽培の生産性を阻害する環境要因の一つである乾燥ストレスに低フィチン系統が影響を受けないかを明らかにすることを目的に、低フィチン系統と普通栽培品種「エンレイ」をビニールハウス内で栽培した。低フィチン系統およびエンレイともに、開花期以降の「着莢期から子実肥大期」に乾燥ストレスに対する感受性が高く、他の時期に乾燥ストレスを受ける時に比べて生産性への影響が大きいことが明らかとなった。乾燥ストレス後の収穫期の子実生産性は低フィチン系統とエンレイで差は見られなかった。従って、低フィチン系統でも乾燥ストレス条件下でも普通栽培品種と同程度の生産性が得られることが明らかとなった。 以上の結果から、申請時に立案した計画は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に得られた成果をもとに2019年度は次の計画を実施する。 1)2018年度に選抜した低フィチン系統を広島大学精密実験圃場に栽培する。10月から11月の収穫期に収量および子実の全リン酸、無機リン、フィチン態リンを測定する。その結果から、生産性が高く、かつ、子実中の全リンに対するフィチン態リン酸の割合が25-30%の低フィチン系統を選抜する。 2)2018年度に選抜した低フィチン系統をリン酸施肥量を変えた圃場に栽培し、収量および収量構成要素、光合成速度、窒素固定、窒素およびリン酸、フィチン態リン酸の集積の測定を行い、低フィチン系統の生理生態学的特性を解明する。さらに、選抜した系統を、慣行栽培よりもリン酸施肥量を半減させた低リン条件で栽培する。生育量、窒素固定能、収量、子実中の全リン、無機リン、フィチン態リン、タンパク質など調査し、低リン条件下でも生育および品質の低下しない低リン酸耐性系統を選抜すると同時に低リン耐性系統の低リン耐性機構を明らかにする。 3)低フィチン鶏糞と高フィチン鶏糞を、土耕ポットもしくは実験圃場に施用し、その後イタリアンライグラス、トウモロコシ、ダイズなどを栽培し、作物の生育に低フィチン鶏糞がどのような影響を及ぼすかを明らかにする。さらに、土耕カラム試験を行い、植物体へ吸収されるリン酸、土壌固定リン酸、さらにカラムの底から流れ出る浸透水のリン酸量を明らかにし、低フィチン鶏糞を農業利用することによる環境への影響を調査する。
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Causes of Carryover |
(理由)2018年度は、圃場で低フィチンダイズを栽培し、そのためダイズの栽培管理および分析などの研究全般の実施に対して補助のための人件費・謝金を多く計上していたが、補助を必要とせずに実施できたため、人件費・謝金の支出がなくなった。さらに、研究成果の発表に国内で開催される学会の出席予定であったが、関連する学会が広島大学で行われ国内旅費が必要でなくなったことから、次年度に繰り越すことになった。 (使用計画)2019年度は、これまでの圃場栽培試験に加えて、より安定した生産性を持つ低フィチン系統を選抜する。そのためにダイズの栽培管理を補助する人件費・謝金に多く支出する予定である。また、成果を公表するための国際誌への投稿を計画している。そのための論文校正費と投稿料を予定している。さらに、2019年度は圃場栽培試験に加えてビニールハウス内でのポット栽培試験を多く予定しており、2018年度に比べて、分析項目、分析点数も増える予定であり、そのため栽培試験用の資材や収穫後のダイズ植物体および種子の各種分析に必要な分析器具や試薬類などの多くの消耗品の購入を計画している。
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Research Products
(3 results)