2019 Fiscal Year Research-status Report
低フィチン穀類によるリン酸資源の有効活用と環境負荷低減
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18K05948
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
実岡 寛文 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (70162518)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フィチン酸 / 低フィチン系統 / リン酸資源 / 低リン酸耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイズに含まれるリン酸(P)の70~90%は有機態P化合物であるフィチン態P(フィチン酸)である。しかし、フィチン酸は、鶏、豚などの単胃動物では吸収・利用できない。そのため、濃厚飼料中のPの多くが環境中に排泄されている一方で、家畜のPの吸収・利用率を高めるため濃厚飼料に無機態Pが大量に添加されている。しかし、P資源は有限であり将来枯渇が危惧されている。また、フィチン酸に鉄(Fe)や亜鉛(Zn)などの微量元素が結合したフィチンは、抗栄養成分の一つであり、単胃家畜において微量元素の利用率を減少させることが知られている。代表者は、こうしたフィチン酸に関わる問題を解決することを目的に、フィチン態P含量が低く無機態P含量の高い「低フィチンダイズ」を育種・開発し、多くの系統を保有している。しかし、育成した低フィチン系統の農業利用を図るためには、様々な環境ストレス条件下でも生産性の安定した環境適応性の高い系統の選抜が重要である。一方、土壌中のPは、フィチン酸などの有機態Pや土壌中のFe、Caなどと結合した難溶性Pとして存在しており、これらのP化合物は植物に吸収・利用され難い。そのため、土壌中の難吸収性P化合物を効率よく吸収・利用できる系統の選抜もP資源を有効活用する上で重要である。そこで、2019年度は、保有している低フィチン系統の中から、低P条件でも生育が維持できる系統の圃場選抜試験と、その系統の低P耐性機構の解析を行った。圃場試験の結果、西日本栽培品種「エンレイ」と同等かそれ以上の系統が選抜できた。また、低フィチン系統を低P条件と乾燥ストレスを組み合わせて土耕コンテナ試験からエンレイと収量の同等な系統、さらに低P酸条件の土耕ポット試験から、発芽時から微量元素の利用性と根のフォスファターゼ活性の高い系統などが選抜でき、これらの系統は環境適応性の高い系統であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、2005年度から、毎年圃場条件下で栽培し選抜した「低フィチン系統」について、2019年5月下旬に広島大学精密実験圃場に播種し、10月下旬から11月上旬にかけて収穫し収量調査を行い、西日本で栽培されている普通栽培品種「エンレイ」と収量が同程度の低フィチン系統を選抜した。また、乾燥ストレス下で、かつ、低P施肥条件下で生育量の低下が見られない低P耐性系統の選抜を行い、その特性を明らかにすることで、環境適応性の高い系統を選抜することを目的に以下の試験を行った。 1)エンレイと低フィチン系統を、過リン酸石灰を基肥として20 P2O5 kg/ha(20区)と100 P2O5 kg/ha(100区)を施肥した条件で生育させ、さらに、2018年度の試験において明らかとなった乾燥ストレスに最も影響を受けやすい開花期から子実肥大期の15日間、潅水を制限することによって乾燥ストレスを付与し、収穫期の収量調査と子実の品質を調査した。その結果、低P施肥条件下でも、低フィチン系統では乾燥ストレス下で普通栽培品種と同等かそれ以上の収量が得られること、さらに、P20区およびP100区、いずれのP施肥条件下でも、低フィチン系統はフィチン酸含量が低く、非反芻家畜におけるFe、Znの利用性(Bioavailability)も高く維持されることが明らかとなった。 2)低フィチン系統の低リン酸耐性を検討することを目的に、低フィチン系統とフィチン酸が普通栽培品種と同程度の普通系統を、Pを施肥していないP欠如区で栽培し、地上部、根、根粒の生育状況、窒素固定、根から放出し根圏の有機態Pを可溶化できるフォスファターゼの活性および各種無機養分のBioavailabilityを調査した。その結果、根のフォスファターゼ活性が高く、発芽苗の無機養分の利用性および根粒の窒素固定能力の高い系統が選抜できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2018、2019年度に得られた成果をもとに2020年度は次の試験を計画する。 1)2019年度に選抜した低フィチン系統と普通栽培品種の「エンレイ」を5月下旬から6月上旬に圃場に播種し、10月から11月中旬にかけて収穫する。収穫時の子実収量および子実の全P、無機P、フィチン態Pを測定しながら、安定した収量と、子実品質の高いフィチン系統を選抜する。 2)2019年度の試験において得られた系統に、さらに系統を増やし、慣行栽培よりもP施肥量を低減した低リン条件で栽培し、生育量、窒素固定能、収量、子実中の全P、無機P、フィチン態P、各種無機養分、タンパク質含量など調査し、低リン条件下でも生産性のより高い低P耐性系統を選抜する。さらにその系統について低P条件下で根から放出される有機酸量やフォスファターゼの活性やその量、植物体内でのPの移動性(mobility)について解析し、環境適応性のより高い系統を選抜する。 3)以前に低フィチンダイズと普通系統で調製した濃厚飼料を給与した鶏の飼養実験の際に採集していた低フィチン鶏糞と高フィチン鶏糞を、土耕ポットに施用し、イタリアンライグラス、ダイズ、ホウレンソウなどを栽培し、作物の生育や品質に低フィチン鶏糞がどのような影響を及ぼすかを明らかにする。さらに、鶏糞を混ぜた土耕カラムに潅水を行い、Pの土壌浸透試験を行い、Pの環境中への流出量などを測定し、低フィチンダイズが飼料として有効かどうかを検討する。
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Causes of Carryover |
2019年度は44,441円の残金が生じた。2020年3月23日~3月26日に静岡大学で開催される2020年度日本草地学会静岡大会で「リン酸施肥および乾燥ストレス処理がダイズ低フィチン系統の生産性および子実品質に及ぼす影響」および「Physiological characteristics of low phytate soybean line under low phosphorus condition」の演題で2課題発表する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、講演会が中止なった。2019年度旅費は、本大会に参加する予定で計上していたが、中止となり執行が難しくなったために残金が生じた。この残金と2020年度交付金を合算して、2020年度を使用する予定である。主な使用計画は、実験を遂行するための試薬、農業資材などの消耗品費が主な支出である。今年度は最終年度に当たり、学会での成果発表を計画している。新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後に、国内学会もしくは国際会議が開催される場合には、これらの学会・国際会議での発表旅費を計画に入れている。さらに、最終年度であり3年間の成果の公表の一つとして、国際学術雑誌に投稿する。それに関わる執筆論文の校正経費と投稿時に関わる投稿料(オープンアクセス経費など)を計画している。
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