2018 Fiscal Year Research-status Report
ウシ筋肉内脂肪蓄積制御における免疫応答ダイナミクスの重要性
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18K05958
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山田 知哉 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 上級研究員 (80343987)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ウシ / 肥育 / 脂肪細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
筋肉組織内部等の、通常は脂肪が蓄積しない部位に蓄積する脂肪を、異所性脂肪と総称する。牛肉生産では、異所性脂肪である筋肉内脂肪の蓄積が重要視されている。また重度に肥満の進行したヒトや実験動物でも、筋肉内脂肪の蓄積が進行している。さらに肥満のヒトや実験動物では、脂肪組織内への免疫細胞浸潤が増加し、慢性炎症状態にあることが明らかにされている。最近の研究において、ヒトや実験動物では脂肪細胞における細胞老化促進因子p53発現増加が、慢性炎症に重要な影響を及ぼしているとの報告がされた。これらの結果は、異所性脂肪蓄積制御に細胞老化制御因子を介した免疫応答反応が関与している可能性を強く示唆するものである。そこで本年度は、肥育牛脂肪組織における細胞老化制御因子p53発現を、脂肪部位別に検討した。 供試牛として黒毛和種去勢肥育牛を用い、と畜時に皮下、内臓、筋肉内の各脂肪組織を採取した。各脂肪組織におけるp53遺伝子発現量測定には、リアルタイムPCR法を用いた。脂肪細胞サイズは、オスミウム染色法を用いて測定した。p53遺伝子発現量は、皮下脂肪や筋肉内脂肪組織と比較し内臓脂肪組織が有意に高い値となった。さらに、内臓脂肪と筋肉内脂肪では、p53遺伝子発現量と脂肪細胞サイズに有意な正の相関が認められたのに対し、皮下脂肪ではp53遺伝子発現量と脂肪細胞サイズには負の相関が認められた。これらの結果から、皮下脂肪とは異なり、異所性脂肪である筋肉内脂肪と内臓脂肪では脂肪細胞の肥大化に伴いp53発現が増加し、p53依存性の脂肪細胞老化が誘導されると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究において、肥育牛における脂肪蓄積部位の違いは、細胞老化制御因子p53発現に影響を及ぼすこと、さらにp53老化制御因子発現量と脂肪細胞肥大化との関係において、内臓脂肪細胞と筋肉内脂肪細胞は、皮下脂肪細胞とは異なる反応を示すことを見出した。これらの結果は、異所性脂肪である筋肉内脂肪と内臓脂肪の細胞老化制御機構を介した免疫応答反応の類似性を示すものであり、研究目標は順調に達成されていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ウシ品種が脂肪組織中の免疫応答を介した筋肉内脂肪蓄積制御に及ぼす影響を明らかにする。筋肉内脂肪蓄積能力の大きく異なる、黒毛和種及びホルスタイン種去勢牛を用い、筋肉内脂肪や内臓脂肪等における細胞老化制御因子や免疫細胞系マーカー発現を測定する。さらにウシ品種の違いが、脂肪組織内への免疫細胞の浸潤に及ぼす影響を解析する。
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Causes of Carryover |
(理由) 次年度繰越金は、主に試薬等物品の購入に係る研究費の効率的な使用によって発生した残額であり、次年度に請求する研究費とあわせて本研究計画遂行のために使用する。 (使用計画) 次年度の研究費は平成30年度繰越金と合わせ、筋肉内脂肪蓄積制御機構に免疫応答が及ぼす影響を明らかにするための、分子生物学的並びに組織学的解析実施に必要な、主に試薬購入等物品費として使用する。
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