2019 Fiscal Year Research-status Report
メタゲノム解析による種間伝播(スピルオーバー)する動物ウイルスの探索
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18K05977
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
長井 誠 麻布大学, 獣医学部, 教授 (10540669)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大井 徹 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (10201964)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 野生動物 / 家畜 / 糞便ウイルス / 種間伝播 / 疫学的調査 / 網羅的解析 / 遺伝子解析 / 新規ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では家畜と野生動物との間で種間伝播を起こしている可能性のあるウイルスを網羅的に解析し、ウイルスの進化を考察することを目的としている。我が国のイノシシと豚において豚熱が26年ぶりに発生し、イノシシと豚との関連が明らかになったことから、イノシシと豚に焦点を当てて研究を行ってきた。疫学的調査では、石川県内のブタの飼育施設構内と周辺の山林に各5台の自動撮影カメラを設置し、飼育施設に侵入し豚との間でウイルスを伝播する可能性のある野生動物相を把握した。飼育施設にはイノシシの侵入防止用に電気柵とネット柵が2重に設置してあった。ネズミ類、イノシシ、タヌキ、コウモリ類、キツネ、ネコ、ウサギ、テン、計8種類の哺乳類が撮影された。敷地内では、ネズミ類が極めて多く撮影された。イノシシは山林の中のみで撮影され、侵入防止施設は効果を発揮していた。一方、敷地内のネズミ類や家畜飼料に引き寄せられたキツネ、タヌキが山林と施設敷地を往来しており、イノシシからのウイルスの伝播者となりうる可能性があった。 前年度に引き続きイノシシおよび豚の糞便からウイルスを網羅的に解析し、様々なウイルス遺伝子を検出した。当該年度はサポウイルスおよび豚トロウイルスの遺伝子解析を重点的に行った。サポウイルスはノロウイルス同様ヒトの下痢原性ウイルスであり、様々な動物から19型の遺伝子型が見つかっているが、これまでイノシシからの検出例はなかった。今回、イノシシからサポウイルスを世界で初めて検出した。ヒト、豚およびイノシシのサポウイルスを比較したところ、ヒト由来は系統が離れていたが豚とイノシシのウイルスは同じ遺伝子型の近縁なものと少し離れた系統が確認され、種間伝播する可能性が示された。豚トロウイルスは豚からのみ検出されたが、我が国のトロウイルスはトロウイルス同士が遺伝子組み換えを起こしたキメラウイルスであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生動物へのウイルス浸潤と家畜との関連についての疫学的調査では、石川県内の豚の飼育施設構内と周辺の山林に自動撮影カメラを設置し、35日間にわたり飼育施設に侵入し、豚との間でウイルスを伝播する可能性のある野生動物相を把握した。 ウイルス検査材料については、前年度はイノシシ48検体、豚54検体、シカ3検体および牛13検体、当該年度はイノシシ52検体、豚20検体、クマ4検体およびタイワンリス2検体の糞便を採材し解析に供しており、予定どおり順調に進捗している。 ウイルスの解析については、初年度は豚のウイルスを中心に実施し、サペロライク豚ピコルナウイルスの発見、サペロウイルスの遺伝子全長解析および新規ポサウイルスの遺伝子解析を行い、新しい知見を得た。当該年度はイノシシと豚の両方について実施し、サポウイルス、豚トロウイルスの解析で新規知見を得ており、期待どおりに進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年9月に26年ぶりに発生した豚熱によりイノシシの材料採取が困難になることが予想されたが、豚熱に対する防疫が進み、次年度も材料の入手は問題ないと考えている。最終年度を迎えるため、イノシシにおけるスピルオーバーの実態がさらに明らかになるよう実験を進めていく。具体的にはこれまでウイルス検出は遺伝子検査で行っていたが、イノシシと豚のウイルスを詳細に比較する場合にはウイルスを分離する必要がある。最終年度はイノシシおよび豚の糞便から培養細胞を用いてウイルス分離を試みる。このため、イノシシおよび豚からの材料は新鮮なものを入手し、速やかに細胞への接種ができるよう体制を整える。 イノシシと豚のウイルスの解析は、具体的にはエンテロウイルス、ロタウイルス、コブウイルスなどを対象に進めていく。次世代シークエンスのデータを基にいくつかのウイルスの遺伝子診断法の開発を行っており、さらにウイルス分離に成功したものに関しては血清学的診断法の開発も併せて行い、研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
論文の作成が遅れ、英文校正の予算を執行できなかったため。
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Research Products
(4 results)