2018 Fiscal Year Research-status Report
新規抗血栓薬の開発に向けた猫の先天性血液凝固第XII因子欠乏症の病態解明
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18K06004
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
丸山 治彦 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (60434106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ネコ / 第XII因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
第XII因子(Factor XII: FXII)は血液凝固因子の1つであるが、その欠乏症は手術をしても全く異常出血を呈さない。近年、医学ではFXIIが血栓形成や炎症をコントロールしていることが明らかとなり、FXIIが出血の副作用を有さない新規抗凝固薬の開発ターゲットとして注目されている。申請者は、猫や犬における血栓性疾患や炎症性疾患に対して、高い効果を有しつつ副作用のない治療法の確立を大きな目標としている。そこで本研究ではその基盤研究として、本年度はFXII欠乏症の猫におけるF12遺伝子変異を明らかにするために遺伝子解析を実施した。 日本大学動物病院に来院し血液凝固検査を実施し活性化部分トロンボクラスチン時間(APTT)の延長が認められた症例を対象とした。さらに他院にてAPTT延長が認められ第XII因子欠乏症が疑われた症例も対象に組入れた。症例は基礎疾患を有するものだけではなく、基礎疾患が存在しない症例も含めた。それら症例の中で、内因系凝固因子活性を測定し第XII因子が50%以下に低下し、かつ他の凝固因子の欠乏症が存在しない症例に対して、遺伝子解析を実施した。 その結果、17例において遺伝子解析が行われた。17例の内、9例は基礎疾患なし、残りの8例は基礎疾患を有した。既報のF12遺伝子変異であるp.G544Aは10例で、C441fsX119は2例でのみ認めた。さらに既報の変異が認められていないにもかかわらずFXII因子活性が軽度低下(20-50%)していた症例において、3つの新規遺伝子変異の候補が同定された。今後はこれら新規遺伝子変異のFXIIタンパクへの影響を明らかにするために遺伝子組換えタンパクを作出し解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
猫の第XII因子欠乏症の発生頻度は、米国での報告によると約2%とされている。研究開始前の計画では本院来院猫を年間400-500例としており、それに基づいて10例を予定していた。平成30年度は基礎疾患を有さない第XII因子欠乏症例9例を含む合計17例と予定の倍近い症例で遺伝子解析を実施することが出来た。その結果、既報の遺伝子変異2つに加えて、新たな遺伝子変異の候補を3つ同定することができた。以上のことから平成30年度の研究進捗状況はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究により猫の第XII因子欠乏症における責任遺伝子の新規遺伝子変異候補が3つ同定された。そこで、今後は新規遺伝子変異によるFXII活性への影響を評価するため、これらの遺伝子組換えタンパクを哺乳動物細胞を用いた発現系により作出し、ウエスタンブロット法による蛋白発現様式解析、リアルタイムPCRによるF12 mRNA発現量解析、さらに得られた組換えFXII蛋白の血液凝固活性能を測定する予定である。 研究代表者は、以前、米国における第XII因子欠乏症の猫17例を対象として遺伝子解析を行った結果、ほぼすべての症例がC441fsX119とp.G544Aの両遺伝子変異を有していた。一方、今回の研究ではp.G544Aは10例であったのに対し、C441fsX119は2例でのみ認め、米国とは異なる傾向であった。今後はより多くの品種や地域から検体を収集し、この2つの遺伝子変異の分布差を追究する必要があると考える。そのためには非常に多くの検体を迅速に処理し解析する手法が必要となる。そこで、実験手技が煩雑なシークエンス法によらないRFLP法もしくはリアルタイムPCR法を用いたSNP検出系の確立を試みる。
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