2019 Fiscal Year Research-status Report
低造腫瘍性を示すアフリカツメガエルのゲノム情報による原因遺伝子同定とヒトへの応用
Project/Area Number |
18K06013
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 利明 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (40263446)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | Cdk阻害因子 / 造腫瘍性 / Cyclin E / アフリカツメガエル / 胞胚中期 / 尾芽胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
X.laevisにみられる低造腫瘍性の原因を探るため、2018年度実施研究において遺伝子発現量のin silico比較解析を行い、X.laevisで特異的な発現様式を示す因子としてCyclin E1を見出した。一般的にCyclin Eは、細胞周期を直接制御し、細胞増殖の調節を行っている因子であるため、Cdk阻害因子に依存しないX.laevisの低造腫瘍性の原因遺伝子として係わる可能性が考えられた。 Cyclin Eタンパク質は、体細胞周期のG1期に発現してS期に分解することにより結合パートナーCdkの活性を制御し、G1/S期の制御を担っている。一方、Cyclin E1タンパク質は、母性因子としてX.laevis 受精卵に多量に存在し、受精後12回の細胞周期の間は保持されるが、その後、胞胚中期から急激に分解する。その働きは長年に渡り不明である。in silico遺伝子発現解析の結果、胞胚中期で急激に分解して低いレベルにあるCyclin E1が、尾芽胚以後より再度発現量上昇することがわかった。このことから母性因子であるCyclin E1が、X.laevisの体細胞分裂においても機能する可能性が考えられた。そこで、Cyclin E1の変異体を作成し、そのタンパク質を受精卵に導入することで現れる表現型から細胞に対する働きを調べた。まず、胞胚中期での分解をうけないCyclin E1タンパク質を作成したところ、胞胚中期を含む初期発生過程に異常が認められなかったが、体細胞分裂期である尾芽胚において統計的有為に尾部の短小化が生じた。Cyclin EはCdkとの結合を通して機能を示すため、次にCdk結合部位を欠損させたCyclin E1を作成した結果、Cyclin E1の尾芽胚における働きにCdk結合は関与しないことがわかった。これらの結果から、Cyclin E1は体細胞分裂においても機能しており、その働きには既知の結合パートナーCdkが関与しないことが示された。また、Cyclin E1による初期胚の正常発生には胞胚中期におけるタンパク質分解が重要であることも明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度実施のin silico解析により新たな候補因子Cyclin E1を見出したことから、CDK阻害因子以外の低造腫瘍性原因の候補として検討を進めた。Cyclin E1の変異型を作成し、精製タンパク質のマイクロインジェクションによる受精卵導入を数百個単位でおこなうことにより統計的有意な結果として、母性因子であるCyclin E1が体細胞の制御に係わる可能性を得た。また、CyclinE1の上流となり得る因子についても、X.laevis 卵へのマイクロインジェクション実験を実施し、得られた結果をサポートしている。これらのことから、研究計画はおよそ順調に進展しているといえる。その一方で、研究実施計画に含めたX.laevisのp21CIP1 変異体および p27XIC1のcDNA クローニングについては今年度は実施を延期した。これは、CyclinE1のマイクロインジェクション実験において、細胞増殖制御に関するCyclinE1の新たな機能がみえてきていることから、その解析を優先したためである。X.laevis のCyclin E1についての知見は1995年に報告されて以来、20年以上も未解明のままとなっており、本研究による再発見が機能解明につながることも期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果をうけ、今後の研究においては、Cyclin E1についての解析を継続する。具体的には、母性因子であるCyclin E1が、X.laevisの体細胞分裂制御においても機能する分子機構の解明を目指す。本年度の解析により、これまでに知られたCyclin E1の結合パートナー Cdk とは別に機能していたことがわかったため、その分子機構を知るためにはCyclin E1の結合タンパク質を探索する必要がある。この操作では、マイクロインジェクションしたタンパク質をタグによって回収して質量分析を行う。この結果、X.laevis の低造腫瘍性に係わり得る可能性が考えられる結合因子について、ヒト癌細胞の増殖への影響を調べていく。
|
Causes of Carryover |
今年度の研究計画実施において、既知の結合パートナー Cdk とは別にCyclin E1が機能していたことが明らかとなったため、その分子機構を知るためにはCyclin E1の結合タンパク質を探索する必要がある。今後必要となる質量分析においては、分析の外注を含めて多くの費用が必要となること、また、実験操作が多くなることから、速やかな研究遂行のために研究補助員を雇用することが望まれる。次年度使用額は、研究遂行に伴う分析の外注および消耗費購入費に加え、研究補助員の雇用費にあてる予定となっている。
|