2019 Fiscal Year Research-status Report
希少な異種マウスのES細胞樹立と4倍体胚盤胞補完法による系統保存と個体復元
Project/Area Number |
18K06045
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
持田 慶司 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任技師 (60312287)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 野生由来異種マウス / 個体復元 / ES細胞樹立 / 4倍体胚盤胞補完法 / 凍結保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウスは最も多用されている実験動物であり、近年では世界各地で捕獲され遺伝的隔たりの大きい野生由来の異種マウスとの遺伝子機能の比較研究が発癌や老化など様々な分野で進行している。我々は今までに数千系統の実験用マウスと亜種関係にあたる野生由来のマウス40系統の受精卵凍結保存および産子への復元に成功し報告してきた。しかしMus musculus以外の異種マウス系統の配偶子や受精卵による凍結保存は成功例の報告がなく、常に絶滅の危機に直面している。本研究で我々は異種マウスから高品質の受精卵を採取し、体外増殖および半永久的に保存の可能な多能性幹細胞であるES細胞の樹立および凍結保存を試み、ES細胞を用いる新しい系統保存法の確立を開始した。 我々は2年間に実験用マウスと亜種のCASP系統(Mus mus. castaneus)、異種のZBNおよびSPIの2系統(M. spicilegus)の受精卵から ES細胞株を樹立し凍結保存した。次に2倍体胚および胎盤にしか寄与できない4倍体胚へのES細胞の注入および凝集を行い、2倍体胚より異種間キメラ個体の作出に成功した。現在、ES細胞由来の産子が得られるか交配実験を進めている。更に、血液中の白血球を用いた顕微授精からもCAST系統(M. m. castaneus)のES細胞の樹立に成功した。この方法は非侵襲的にマウスを利用でき、受精卵の獲得が困難で最も離れた異種であるCar系統(M. caroli)からのES細胞の樹立を進めている。一方でSPR2系統(M. spretus)の受精卵を作出して様々な条件で移植を行ったところ、交雑系の受容雌を用いることで齧歯動物での異種間胚移植に初めて成功した。最終的にこれらES細胞から産子が作出できれば、系統の保存だけではなく、母体と異種産子との相互作用の研究や遺伝子改変異種マウスの作出など様々な利用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、高品質な受精卵を作出することで亜種1系統、異種2系統からES細胞の樹立に成功した。これらES細胞は染色体の染色およびカウントにより正常性を、Y染色体上のSry遺伝子のPCR試験により雌雄の確認を行った。正常性の高いES細胞を2倍体および胎盤にしか寄与できない4倍体胚に注入法および凝集法でキメラ胚を作製して胚移植を行った。その結果、4倍体胚からは産子は得られず、注入法からのみキメラ産子が4匹(ZBN系統)と6匹(SPI系統)得られたが、いずれも毛色の比率は30%以下だった。現在は交配実験の最中であるが、ES細胞の生殖系列への寄与は困難と予想される。これまで凝集法での産子が得られなかったことから、プロトコールの修正を行い、胚移植を1日遅らせることが効果的であることが分かった。また、現在までに異種マウス胚の移植は成功例が報告されていないことから、異種のMus spretus の胚を様々な条件で胚移植したところ、単一系統ではなく交雑マウスから産子が得られ、齧歯動物での異種間胚移植に初めて成功した。MHCのハプロタイプがヘテロである交雑マウスを利用することで、母子間で免疫寛容に近い状況だったと予想される。一方で、血液中の白血球を核移植してその胚からES細胞を樹立する試みを行ったところ、亜種マウス2系統でES細胞を樹立することに成功した。この方法は受精卵の作出やマウスを淘汰する必要がなく、非侵襲的に血液1滴採取すれば可能なことから、体外受精の困難なCar系統(Mus caroli)に適応できると考えられたが、最初の試みでは注入した卵子の発生がすべて2細胞期で停止し今後の改善が必要と考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
まだ作出できていないES細胞の樹立を、Mus spretus およびMus caroli に属する系統について受精卵および血球クローンを用いてそれぞれ進める。特に後者は注入後早期に発生停止が見られたので、種間クローンの研究に用いられているTSAやHDACiの利用を考えている。また、今までに樹立したES細胞株について、未分化状態の確認(アルカリフォスファターゼ活性等)およびテラトーマの形成観察により評価を行う。ES細胞由来の産子作出の試みは引き続き進める予定であり、当室で確立した生殖系列に寄与しないKO胚(sg Nanos3/Cas9)の準備が整っているので、実験再開後にES細胞の注入を行う。また、ホスト胚および移植用受容雌を交雑や免疫不全系統にするなど、ES細胞と胚、受容雌の系統の組み合わせを検討する。今までの成績から、4倍体胚を用いた産子作出は困難と考えられるが、複数胚の凝集によるキメラマウスの作出は効果的だと考え、その条件を参考にES細胞からの産子作出も再度進める予定である。本研究課題の2年間に、亜種および異種マウスからES細胞の樹立、異種間キメラマウスの作出、異種間胚移植、異種間核移植クローンを用いたES細胞の樹立に成功してきた。更にES細胞からの産子作出を進めることで、絶滅の危機にある動物種のレスキューのための技術を確立させる予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度は、業務の都合により予定していた学会参加を見送ったため支出減額となった。また、ES細胞樹立の効率が良く、使用マウス数や消耗品費の削減ができた。 2020年度は、ES細胞から野生由来系統マウスの復元が困難だったことから、実験回数を増やす必要があるため、マウス代金10万円、培養液などの試薬費用10万円、遺伝子解析費用約5万円の増額により個体復元実験の充実を図る予定である。
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