2019 Fiscal Year Research-status Report
Gross chromosomal rearrangements using DNA repeats
Project/Area Number |
18K06060
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中川 拓郎 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (20324866)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 染色体異常 / セントロメア / 相同組換え / DNA複製 / 反復配列 / 分裂酵母 / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
転座などの異常染色体が形成すると細胞死やガンなどの遺伝性疾患を生じる。そのため、染色体を安定に維持することは重要である。DNA損傷が生じてもRad51依存的組換えが正確に修復することで染色体異常は起こらない。しかし、Rad51が正常に機能しないと染色体異常が発生する。分裂酵母のrad51破壊株では、染色体のセントロメア領域に存在する逆向きのDNA反復配列を「のりしろ」に、左右の染色体腕が同一配列、且つ、鏡像関係となった同腕染色体が形成する。しかし、こうした染色体異常がどの様にして起こるのかは未だ明らかとなっていない。 我々は、相補的な1本鎖DNAどうしのアニーリング(Single-strand annealing, SSA)を触媒するRad52が反復配列を「のりしろ」にした染色体異常に関与することを明らかにした。精製蛋白を用いた解析から、DNA結合ドメインを変異したRad52-R45K蛋白は、野生型Rad52に比べ、SSA活性が低下することを示した。また、rad52-R45K変異を導入するとrad51破壊株での染色体異常が大きく減少することを明らかにした。DNAミスマッチ修復因子Msh2-Msh3がRad52のSSAを補助し、DNA切断酵素Mus81が組換え中間体を切断することで異常染色体を形成することが示唆された。 セントロメア領域では、Rad51依存的組換えが優先的に起こり、通常、Rad52依存的組換えは起きない。こうした組換え経路の選択は、染色体の安定維持に重要であると考えられる。興味深いことに、DNAポリメラーゼαなどの複製伸長因子が変異すると、Rad52依存的組換えと染色体異常が誘発された。これらの結果から、セントロメア領域の組換え経路の選択にDNA複製が関与すると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
染色体異常が起きると、細胞死やガンなどの遺伝性疾患が引き起こされる。このように、染色体異常は生命の維持に重大な影響を与えるにも関わらず、そのメカニズムは未だ明らかとなっていない。本研究課題では、分裂酵母を用いて、染色体異常の発生と抑制の分子メカニズムを解明する。 【1】染色体のセントロメア領域にはDNA反復配列が存在し、それを「のりしろ」に染色体異常が起きる。ヒトなどのセントロメア領域は染色体が凝縮したヘテロクロマチン構造を形成するが、その生理的意義は解明されていない。我々は、ヘテロクロマチン構造が染色体異常の抑制に重要であることを明らかにした(Okita et al. 2019)。ヘテロクロマチンに特徴的なヒストンH3の9番目リシンのメチル化が減少すると染色体異常が起きるが、RNAポリメラーゼIIや転写因子Tfs1/TFIISを変異すると染色体異常が減少した(Nakagawa and Okita 2019)。これらから、ヘテロクロマチンは転写阻害を介して染色体異常を抑制すると考えられる。 【2】ヒトBRCA1、BRCA2の変異細胞ではRad51が正常に機能しないために、染色体異常が高頻度に起こり、乳がんなどを発症する。分裂酵母Rad51を破壊すると、セントロメア領域の反復配列を「のりしろ」にした染色体異常が高頻度で起こる。しかし、このとき、どのようにして相同配列を介した染色体異常が起きるのかは明らかでない。我々は、Rad51とは独立に、相同な1本鎖DNAどうしをアニーリングするSSA活性を持つRad52が、セントロメア領域の反復配列を介した染色体異常を引き起こすことを明らかにした。また、通常、セントロメア領域では、DNA複製因子の働きにより染色体異常を誘発するRad52のSSA活性は抑制されていることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヘテロクロマチンは転写阻害を介してセントロメア反復配列を「のりしろ」にした染色体異常を抑制することを明らかにした。しかし、セントロメア反復配列の転写が、どのようにして染色体異常を誘発するのかについては不明である。 【1】RNA:DNAハイブリッドによる染色体異常の誘発。転写によりRNA:DNAハイブリッドが形成し、それが染色体異常を誘発する可能性を検証するために、RNA:DNAハイブリッド特異的に結合する抗体S9.6を用いて、ヘテロクロマチン欠損株でRNA:DNAの検出を試みる。RNA:DNA特異的なRNA分解酵素RNaseHの過剰発現により、ヘテロクロマチン欠損株での染色体異常が減少するかを明らかにする。逆に、RNaseHの遺伝子破壊によっても、セントロメアでの染色体異常が増加するかを明らかにする。 【2】ヘテロクロマチン欠損株での染色体異常にRad52依存的SSAが関与するのか?Rad52のSSA活性のみが特異的に欠損するrad52-R45K変異をヘテロクロマチン欠損株に導入することで染色体異常が減少するかを明らかにする。また、ヘテロクロマチン欠損株で、Rad52-mCherryの核内フォーカス形成が増加するのか蛍光顕微鏡観察する、また、クロマチン免疫沈降法によりRad52がセントロメアなどの反復配列領域に局在するのかを明らかにする。 【3】ヘテロクロマチン欠損株での染色体異常は交叉型組換えとBreak-induced replication (BIR)のどちらで起こるのか?交叉型組換えに働くDNA切断酵素Mus81やBIRに働くDNAポリメラーゼδを変異することで、ヘテロクロマチン欠損株での染色体異常が減少するのかを明らかにする。 【4】Rad8/Rad5/HLTFによるPCNA K107のユビキチン化がrad51破壊株での染色体異常に関与することを論文発表する。
|
Causes of Carryover |
投稿論文をオープンアクセスの科学雑誌に発表する予定であり、その投稿料が高額である。また、PCNAに関する研究内容も次年度に投稿する予定である。これらの英文校正と投稿料を賄うために次年度使用額が生じた。
|
Remarks |
1.2019の投稿論文(Okita, Nakagawa et al., 2019)が、科学雑誌Communications Biology創刊2年目の論文コレクションに選ばれました。 2.研究代表者の中川拓郎が、科学雑誌Communications Biologyの2020年4月のReviewer of the Monthに選ばれました。
|
Research Products
(6 results)