2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞成長を司るTORC1の活性化を誘導するアミノ酸感知システムの包括的理解
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18K06111
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
荒木 保弘 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60345254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | TORC1 / 酵母 / リン酸化酵素 / 細胞成長 / 栄養増殖 / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞は栄養源のアミノ酸を厳密に感知して、細胞の増殖と成長を制御している。この情報はTORC1に集約され、TORC1のリン酸化酵素活性のオンオフに転換される。TORC1の活性化において、細胞が20種もの多様なアミノ酸をどのように認識しているかは長く最大の未解決問題であった。これはTORC1の活性化経路の全貌が不明であったことが障壁となり、着手しにくかったことが一因である。研究代表者は新規活性化経路としてPib2経路を見出し、既知のGtr/Ego経路及び新規Pib2経路の二経路のみがTORC1活性化経路として機能することを明らかにしてきた。これにより、全てのアミノ酸はこの二経路のどちらかを経由し、各々のアミノ酸の認識は二経路の周辺因子によりなされていると考えられる。 昨年度に確立したTORC1の活性検出系を用い、本年度は以下の点を明らかにした。①これまで最もよく知られたTORC1の基質であるSch9がGtr/EgoまたはPib2経路を欠損するとリン酸化が半減する。これはGtr/Ego及びPib2の両経路によって活性化されたTORC1がSch9を基質とすることを意味する。② 一方、本研究で同定した新規基質はGtr/Ego経路欠損ではリン酸化状態に全く変化はないが、Pib2経路欠損では著しく減少した。これはTORC1が活性化経路ごとに固有の基質を有することを示唆する。③ 飢餓の酵母に各アミノ酸を添加してTORC1の活性化状態を検証したところ、Gtr/EgoまたはPib2経路のどちらかに依存してTORC1を活性化するアミノ酸、両経路を必要とするアミノ酸に分類できた。これにより全20種類のアミノ酸をどちらの経路で酵母が感知しているかを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞成長と増殖を司るTORC1はリン酸化酵素であり、アミノ酸により活性化される。20種のアミノ酸がどのようにTORC1を活性化するかは最大の未解決問題である。TORC1の活性化経路としてGtr/Ego経路及びPib2経路の二経路が見出されている。TORC1活性化経路はGtr/Ego経路とPib2経路の二経路しか存在しないことから全てのアミノ酸はこの二経路のどちらかをを経由していると考えられる。本年度は20種のアミノ酸それぞれのがどの経路を介しているのかを明らかにした。 研究代表者が独自に作製した既知の基質であるSch9とAtg13のTORC1リン酸化残基に対するリン酸化特異的抗体を用い、各アミノ酸に対するTORC1の活性化状態を、野生株とGtr/Ego経路またはPib2経路のどちらかを欠失する酵母株を用い比較検証した。その結果、Gtr/EgoまたはPib2経路のどちらかに依存してTORC1を活性化するアミノ酸のみならず、両経路を必要とするアミノ酸が存在すること、Pib2経路を経由するアミノ酸の性質として側鎖の小さいアミノ酸であることを明らかにした。加えて、新規に同定した基質のリン酸化状態がGtr/Ego経路欠損では全く変化しないが、Pib2経路欠損では著しく減少した。すなわちこの基質は、Pib2経路を介して活性化されたTORC1によってのみリン酸化される。以上により、二つの活性化経路ごとに固有のアミノ酸に応答してTORC1を活性化すること、またTORC1は活性化経路ごとに固有の基質を有することが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果をもとに以下の点を明らかにする。① Pib2経路はどのようにTORC1を活性化するのか ② 新規基質がPib2経路を介して活性化されたTORC1によってどのようにリン酸化されるのか。 ① これまではTORC1の活性化に際しアミノ酸の混合物を用いていたために著しい進展が得られなかった。しかし今年度、Pib2経路のみを経由するアミノ酸(Pib2経路特異的アミノ酸)を同定した。これによりPib2経路に焦点を当てた検証ができるようになった。窒素源飢餓にある酵母へPib2経路特異的アミノ酸を添加した際に見られるTORC1ーPib2間の相互作用の変化を免疫沈降にて検証する。同時にアミノ酸添加前後でTORC1またはPib2との相互作用に差異を生じるタンパク質を質量分析により同定する。これらはアミノ酸感知タンパク質やPib2経路関連因子の候補である。候補因子の遺伝子欠損酵母のアミノ酸に呼応したTORC1の活性化の変化、アイソトープで標識したアミノ酸への直接結合能を検証することにより上記の可能性を探る。 ② これまでよく知られた基質であるSch9とAtg13はGtr/Ego経路とPib2経路の両経路を介して活性化したTORC1によってリン酸化される。従って、二つの経路は応答するアミノ酸、すなわち上流に違いがあるものの、その下流である基質には相違はないと考えられてきた。しかし、Pib2経路のみに依存してリン酸化されるTORC1の新規基質を見出した。同じTORC1でも経路ごとに基質特異性を生み出す分子機構を明らかにするために、基質特異性に関わるPib2の領域を同定し、さらにこの領域が基質認識にどのように関与するかを試験管内 TORC1リン酸化系を用い検証する。
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Causes of Carryover |
今年度、コロナ禍で研究室での実験が制限された期間があったため、研究計画遂行に遅延が生じ、論文出版に至らなかった。また、出席を予定していた海外の学会への参加をキャンセルしたため、計上していた海外学会参加費を使用しなかった。以上は翌年度の海外学会参加費、論文出版経費として持ち越す。二つのタンパク質に対する抗体の作製を外部に委託するため経費を計上していた。これには一つのタンパク質あたりウサギ一羽免疫、全採血と精製吸収作業 (抗原タンパク質 固定化作業、精製作業)が含まれる。これらすべてを外部委託するのが一般的であるが、抗体作成の専門家からの助言により精製吸収作業を委託せずに申請者自ら行った。その結果、精製吸収作業代の経費削減となった。これを基金として翌年度に持ち越し、研究に必要な物品費として使用することとした。
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Research Products
(2 results)