2018 Fiscal Year Research-status Report
1分子DNAのねじれ応答測定による弾性調節型インスレーター機能の検証
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18K06149
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
村山 能宏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60334249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 尚昭 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00332338)
粟津 暁紀 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00448234)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | DNA / インスレーター / ねじれ / 弾性 |
Outline of Annual Research Achievements |
インスレーター(Ins)と呼ばれるDNA上の特定の配列は,染色体に散在する無数の遺伝子の転写調節の謎を解く鍵と考えられている。本研究では,ArsInsや反復配列等の蛋白質の結合なしにIns活性を示す配列に着目し,これらの配列がDNAの力学的変形を調節する弾性調節型Insとして機能するのか検証することを目的としている。 H30年度は,GFP遺伝子と1つのエンハンサー(Enh)を含む約7 kbpのDNA試料(試料1)と試料1の一部をArsIns (578 bp)に置き換えた試料(試料2)のPCR増幅による作成に成功した。当初予定していた2つの遺伝子を導入した試料のPCR増幅は達成できていないが,これら2つの試料を用いることでArsInsの力学的寄与の検証が可能となる。 試料の作成と並行して,非特異結合を利用したDNA試料を用いて,1分子DNAのねじれ応答(DNAをねじった回数と末端間距離の関係)を観測し,ねじれ応答に現れる特徴的なピークがDNAのループ形成に起因していることを明らかにした(JPSJ誌に掲載)。この結果は,DNA上の特定の配列にひずみが蓄積されることを示唆しており,ArsInsの力学的寄与を明らかにするにあたり,ねじれ応答を取得することが有用なことを裏付ける結果といえる。 また,弾性型Ins の生体内での機能メカニズムを数理モデルにより考察し、ヌクレオソーム排他的な弾性型Ins配列がその周辺のヌクレオソームリッチ配列に比べ、長時間統計的に変形し難い事が重要である事を見出した。さらにヒト細胞におけるエピゲノム及びHi-Cデータの解析により、ヒトゲノム中にこのような弾性型Insが5000カ所以上存在する可能性を見出した(JPCB誌に掲載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画段階ではPCR法及び大腸菌を用いた組換えDNA作製法を用いて,2つの遺伝子(GFP, RFP)と1つのEnhを含む約10 kbpのDNA試料の作成を予定していた。しかし,目的のDNA断片を挿入したプラスミドの作製には成功したものの、PCR増幅が困難であることが分かり,1つの遺伝子(GFP)のみを挿入した試料に切り替えることとした。これにより,当初予定していた試料を用いたねじれ応答測定とGFP,RFPの発現量の蛍光強度測定を行うことはできなかった。一方,これらの状況を鑑み,非特異結合を利用したDNA試料に対するねじれ応答測定を行った結果,ArsInsの力学的寄与を明らかにするにあたり,本研究手法の有用性を示すことができた。 また,配列特的な安定な2重螺旋構造と塩基対間の力場を反映した長鎖DNAの粗視化モデルを構成し、今後ねじれ応答測定を行う種々のDNAの動態をシミュレーションする準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
ねじれ応答については,1年目に作成したArsIns挿入試料を対象として測定を行う。ArsIns有り,無しの試料のねじれ応答を測定し,DNAのループ形成を表すピークの出現位置と頻度から,各試料の応答の再現性とArsInsがねじれ応答に及ぼす効果について調べる。これらの結果に基づき,ArsInsの有無によりDNAの力学的変形が調節可能であるか検証する。 ねじれ応答の測定と並行して,2つの遺伝子(GFP, RFP)と1つのEnhを含むプラスミドを用いて、ArsIns有り,無しの試料をヒト培養細胞に導入し,GFPとRFPの発現量から作成した試料のインスレーター活性を確認する。これらの結果とねじれ応答の結果を比較し,力学的なひずみの蓄積度合いとインスレーター活性の相関を見ることで,ArsInsが弾性調節型Insとして機能するかを検証する。また,RFPの非コード領域を変更することで,当初予定していた2つの遺伝子(GFP, RFP)を含むDNA試料のPCRによる作成を試みる。 また,Ins機能を有する塩基配列の弾性率を定量化するために,DNA力学モデルの数値シミュレーションを行う。実験で用いた配列と同じ配列のDNAモデルを用いて,部分鎖の変位の時間変化を取得し,その振動モードを解析することで部分鎖の実効的弾性率を算出する。 以上の研究により,ArsInsの検証に十分な知見が得られた次第,反復配列を網羅的に作製することにより,反復配列の種類や反復数,DNAループ形成,局所的弾性率の間の相関関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
1年目は,非特異結合を利用したDNA試料を用いてねじれ応答測定を行うこととなり,DNA試料をガラス基板に特異的に結合するために必要な試薬は不要であった。これらの試薬は長期保存が好ましくないため,1年目の購入を見送り,次年度使用額(199,275円)が生じた。これらの試薬は2年目に必須となるため,使用頻度に応じて随時購入する。
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