2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K06152
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小林 直宏 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 上級研究員 (80272160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
児嶋 長次郎 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (50333563)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 核磁気共鳴 / 自動化 / 人工知能 / NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
核磁気共鳴法 (NMR) はタンパク質、核酸(RNA, DNA)といった生体高分子などの原子レベルでの分解能による解析を可能とし、それらの立体構造や原子団の幅広いタイムスケールでの動的な状態に関する情報、薬剤あるいは生体機能を制御する他の分子との相互作用など多様な情報を直接的に得ることができる点において分光学上特異な存在である。この10年余りの間、X線結晶解析やとりわけ近年発展の著しいクライオ電子顕微鏡解析などの技術が大規模に進展し、それらは高度に自動化されている。その一方で溶液あるいは固体NMR解析法では現在もなお経験者による手動解析に依存した部分が多いことが問題点となっている。またNMR法は測定にも1ヶ月あるいはそれ以上の高額なマシンタイムが必要であり長らくNMR 学者を経済的に苦しめてきた。本課題の研究代表者は高い自動化性能を得るためにAI技術の一つとして、ここ数年の間に大規模に発展した深層学習技術を取り入れることを成功し、その成果を国際学会での発表や国際誌に掲載される形で成果報告として成し遂げた。また平成32年度(令和元年)においては分子研究所の古賀准教授らと共に、これらMagROの技術的基盤を用いて高い熱安定性を有する人工的に設計されたタンパク質の構造解析へ応用し、14個もの新規フォールドを持つ立体構造を生体高分子立体構造のデータベースであるPDBへの登録として年度内に実現した。また非線形測定技術、4次元NMR測定の実施を行うことでこれまで律速となっていた測定期間の大幅な短縮にも成功し、最も高速な事例としてわずか3日の測定と半日の完全自動解析により精密かつ正確な立体構造を得ることに成功した。全く人の手を介さない完全自動解析が2件実現できたのは本研究課題での特筆すべき成果といえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者により開発されたMagROと命名された統合型NMRデータ解析システムは信号のノイズ・シグナル判定を人工知能による判定により、ヒトが実行している視覚的直観に近い高精度な判断を高速で実現することに成功し、高度な知識を要するNMR解析を実に半日という短期間で完了できるシステムとして完成された。さらにMagROシステムの内部では解析結果を客観評価できる機能としてNMR信号のシミュレーションを行う機能を人工知能の一種である有限オートマトン・グラフ理論により化学構造・同位体比・NMR信号の磁化移動を計算機が理解できるライブラリ形式で実装し、加えて残余双極子実験(RDC)の自動解析支援をも行う機能を実装させる事に成功した。またこの機能を拡張し、溶液NMRばかりでなく固体膜タンパク質であるバクテリア由来アクアポリンの信号解析、およびより高度な解析を必要とするアミロイドβの解析を成功させた。固体NMRでは溶液NMRよりもさらに高度な同位体ラベル法やNMRスペクトル測定法を用いるため、上記機能の実装による客観評価機能を用いることで従来では経験者による手動で目視的な解析により信号帰属の完成度を判断する事はほぼ必要がなくなった。結果として複雑で難解な解析プロジェクトの終了判定をごく短期間に客観評価して完了できるようになった事も重要な成果であると言えよう。これら機能をまとめた論文を国際誌へ投稿すべく鋭意準備中である。また分子研究所・古賀准教授らとの共同研究において人工的に設計された新規フォールドを有するタンパク質をMagROシステムと非線形測定に加え、4次元を超える多次元NMRを応用することによって高精度かつごく短期間に実施することができた。結果として16件のPDB登録として実現できた事は大きな成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は蓄積されたNMRデータ群を利用した新しい深層学習の開発を行い, MagROの解析システムに実装することで化学シフトの高精度な推定、NOEといった磁化移動の効率を推定できる人工知能型の新規解析システムの構築が次なるターゲットとなる。また有限オートマトン理論を拡張したシステムは特殊な同位体ラベルサンプルへの応用が期待できる。研究代表者は平成32年度(令和元年)における研究で膜タンパク質であるバクテリア由来アクアポリン(23kDa)の固体NMR解析により全信号帰属を達成し、極めて難度の高いアミロイドβの大部分の信号の帰属を特殊同位体ラベルと組み合わせる従来法では表現困難な多次元固体NMRデータの解釈を計算機に具体化させることで実現した。この技術を基に研究代表者はすで 39kDa (334残基)に達する大型タンパク質の溶液NMR解析を達成しつつある。このタンパク質は更に機能発現のためのターゲットタンパク質と複合体形成することが知られており、現状としてNMR解析では最大級となる57kDaのタンパク質解析に挑むことを計画している。次なるこの開発ステップが成功すれば近い将来登場が期待されている1.2~1.5GHz級の超高磁場NMRにおいても大型生体高分子の解析を視野に入れたNMR解析の自動化やルーチン化も夢ではなくなるだろう。MagRO解析システムにはタンパク質、RNA、DNAばかりではなく他の有機化合物分子などのライブラリ拡張が加われば新しい創薬科学あるいは材料科学研究への応用の窓口を広げていくことが期待できる。
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Causes of Carryover |
研究代表者によって本研究課題は大きく進展し、計画以上の性能を実現できた。次年度においては更なる機能強化と最終的なシステムとしての統合が必要となり、計画通りの研究費においてハードウエア等の必要と思われる物品等は年度初期の段階で全て使用できることを考えている。これに加え次年度においては深層学習によって高度化されたMagROシステムに関する多くの追加機能や達成された解析に関する詳細を国際雑への投稿を計画している。そのための論文校閲などの諸費用として上記額を繰り越すことを決断した。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] BioMagResBank (BMRB) as a Resource for Structural Biology2020
Author(s)
Romero Pedro R.、Kobayashi Naohiro、Wedell Jonathan R.、Baskaran Kumaran、Iwata Takeshi、Yokochi Masashi、Maziuk Dimitri、Yao Hongyang、Fujiwara Toshimichi、Kurusu Genji、Ulrich Eldon L.、Hoch Jeffrey C.、Markley John L.
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Journal Title
Methods Molelcular Biology
Volume: 14
Pages: 187~218
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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